中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年05月20日
連雲港市が巨大な西遊記テーマパークを建設
京華時報の報道によると、江蘇省連雲港市はこのほど、40億元(約501億円)を投資して西遊記をテーマとした公園を建設することを明らかにしました。テーマパークは今年7月に着工。2年以内に完成する予定です。
面積は1500ムー(約100ヘクタール)。広さだけ見てみても明らかに上海ディズニーランドを意識したものになっています。市当局は「連雲港は西遊記文化発祥の地である」と、西遊記テーマパークの建設理由を説明しています。
連雲港市は山東半島の南側の付け根にある、海に面した港湾都市です。同市は新疆など内陸への物流の拠点になっており、経済的には中国国内でも栄えている都市だと言えます。しかし文化的には、それほど目を見張るものは見当たりません。ましてや「西遊記文化は連雲港が発祥である」という記述はどこにも見ることはできず、いささかこじつけな印象を受けます。
安易な巨額公共事業に批判の声
このテーマパーク建設には、中国の庶民も疑問に感じているようです(経済参考報の報道)。あるユーザーは40億元(約501億円)かけてテーマパークを建設することについて、「GDPに任せた地方官僚の衝動的な行動であり、政治的に業績をあせった故の行動である」とし、「孫悟空に地方経済発展の重任を負わせるのは伝統文化の冒涜である」と主張しました。
またあるユーザーは「この40億元(約501億円)は天から降ってきたのではないのだ。これらのお金を民生プロジェクトにつかったほうがよっぽどいいのでは」と疑問を呈しました。
ネットでは一様に、「アメリカが上海で巨額の投資をしてディズニーランドを建設しても稼げるかどうか保障できないのに、連雲港のような地方都市が西遊記の知名度を借り、巨額の投資をしてテーマパークを建設してもどぶに捨てているのは目に見えている」という論調になっているのです。
「北京の石景山遊園地のようなコピーはできないから、上海ディズニーに対抗できて、お金稼げる例のやつでやるしかないかな……。」
“もし”、同市の高官がこのような短絡的な思考で、「西遊記のテーマパーク」構想をぶち上げてたとしたら、言語道断でしょう。そして、先のネットユーザーの「声」は、このような高官の「心の声」を敏感に察知したものだと言えます。
憂うべき「マンネリ」中国文化
これらのどたばたを見ていて私が思うのは、現在の中国文化の憂うべき状況です。それは、外国にも通用する「中国独自の誇れる文化」というのが「三国志」や「西遊記」「水滸伝」「パンダ」「カンフー」といった、すでに決まりきったものになってしまっていること、そして制作関係者がその状況に甘えきっているということです。
実際問題、香港にせよ、中国大陸にせよ、テレビドラマ、映画、アニメなどで取り上げるテーマは、もう何年もこれらの「中国的要素」を使いまわしたものであり、はっきり言えば「マンネリ」に陥っています。言い換えれば、これらのテーマは最も無難であり、大衆に受け入れられやすいものです。中国の文化に新しいものが生まれない理由というのは以前の記事でもご紹介しましたが、このような「ぬるま湯」に中国人全体が漬かってしまっている状況が、今の中国の大衆文化だと言えるでしょう。
また私は、現在の中国の制作関係者が「中国的要素」にこだわりすぎていることも、中国の文化的発展のボトルネックになっていると感じています。世界を席巻したアニメであるドラえもんや鉄腕アトム、ミッキーマウスなどは、知らない人が見たら、どこの国の人が創造したのかはたぶん分からないでしょう。しかし現在は、ドラえもんや鉄腕アトム自体が、日本文化の象徴になっていますし、ミッキーマウス自体がアメリカ文化の象徴になっています。
先の連雲港市の「西遊記のテーマパーク」構想は、地方官僚でさえ「西遊記」という無難なテーマに未だにすがりきっていることを国内外に知らしめてしまったわけで、日米のような「世界の人々に影響力」を与えうる文化を作り出すことができるのかが中国の文化産業発展の今後の課題なのでしょう。
*追記
連雲港市と西遊記とのつながりについて、読者の方から、孫悟空の故郷と同名の「花果山」という山があり、「西遊記」関連の学会も開催されているということで、全く関係がないというわけではないとのご指摘がありました。情報ありがとうございました。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。