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2011年05月23日
原文:「カムパ芸術祭」の目障りな毛皮*当記事はブログ「チベットNOW@ルンタ」の許可を得て転載したものです。
翻訳:雲南太郎(@yuntaitai)さん
7月25日、青海省玉樹(ジェクンド)チベット族自治州の州都・結古鎮。「カムパ芸術祭」開幕式のこの日、街は渋滞し、携帯電話もつながりにくくなっていた。開幕式が行われる草原には無数のテントが並び、各地から駆けつけたチベット人が会場を何重にも取り囲んでいる。カメラを手にした内外の観光客はみなつま先立ちでのぞき込み、すき間に入り込もうとしている。警官、武装警官も前例が無いほどの数だった。各県から派遣されてきた警官もいる。
私は運良く最前列に分け入ることができ、ちょうど玉樹州の民族衣装チームが通り過ぎるのを見た。予想通り、6県から来た男女の出演者の多くはカワウソやヒョウ、トラの毛皮で縁取ったチベットの民族衣装に、重なり合った巨大で鮮やかなアクセサリーで、頭から胸、手までを覆っている。十数人の警察は用心棒のように彼らを警護していた。
出演者が少し立ち止まると、中国の内地から来たメディアのカメラマンが群がり、争うように写真を撮り始めた。まるでこれがチベット人の服飾文化を代表し、幸福な暮らしを反映しているとでも思っているかのようだ。ここ数年の間に広がった、ヒョウやトラの毛皮を盛んに身に着ける下劣な慣習。それはチベット文化をまったく理解していない中国内地メディアが、故意か無意識かはともかく、誇大な宣伝を続けていることと無関係ではない。
58人からなる玉樹州ダンスチームは、企業や団体から派遣された社会人と、学校派遣の学生とで構成されている。みなカワウソやヒョウ、トラの毛皮で縁取った衣装を着ている。メンバーの1人である学生に話を聞いた。
「イベント出演は政治任務だから、着なければ政治犯になってしまうんです」と申し訳なさそうに話している。政治犯という言い方は恐らく誇張だろう。しかし現地の人の話によると、毛皮の衣装を着なければ、公職にある出演者はくびになる可能性まであるのだという。農民や遊牧民の場合だと、6月と7月の練習でもらえる1日50元(約625円)の手当てが支払われなくなるのだとか。それどころか、着なければ罰金だと話す人もいた。
雲南省デチェン州や四川省カンゼ州、チベット自治区チャムド地区から派遣されてきた民族衣装チームも、多くの男女がヒョウやトラの毛皮と大きな首飾りを身につけていた。これは単なる民族衣装のショーではない。ある種の政治的な態度表明であることは明らかだ。各地区の責任者が、ダライ・ラマに反対する「政治的な決意」を持っているのかどうか。主催者席に座る高官たちは、毛皮着用の有無を見て、責任者たちを審査、評価しているのだ。
しかし、観客席に目を向けると、毛皮をみにつけているチベット人は極少数に過ぎない。今回のアムドとカムの旅行中に見かけたものと同じく、これまでは希少動物の毛皮で縁取られていた部分を、きらびやかな織物に置き換えた衣装を身につけている。美しいが、大げさな贅沢さはない。
十数人のチベット人に、なぜ毛皮の服ではないのだと聞いてみた。ダライ・ラマの「悪習を捨てなさい」という呼びかけに応じたのだと全員が答えている。かつての祭りと比較してみると、「カムパ芸術祭」では、毛皮を身に着けたチベット人は大きく減っている。例えば、2001年夏の玉樹州建州50周年の記念活動では、出演者にも観客にも毛皮が着た人が多かった。
特筆すべきは7月29日の閉幕式だろう。各地の民族衣装チームが再び会場に現れた時、観客の野次が聞こえてきた。「ヒョウの毛皮もトラの毛皮も恥ずかしいぞ!」、と。勤務中のチベット人武装警察3人は大胆にもこう話していた。ダライ・ラマの呼びかけは民族へのいたわり、自然環境への慈しみなのだ、と。
2007年7月30日ジェクンド(玉樹)にて