中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年05月22日
1件当たり5毛(約6円)の報酬で、中国政府に有利な発言をインターネット上に書き込む体制側の「世論誘導役」。「ネット・コメンテーター」とも呼ばれ、約30万人いるとみられている。主に政治的な話題について、サクラ書き込みをしている人のことを指す言葉ですが、今回ご紹介するのは、ビジネスの世界に動員された商業五毛党の体験記です。
Kotobank「五毛党」
下記は、注目を集めたブログ記事などを掲載する雑誌『博客天下』5月16日号に掲載された記事の抄訳です。苦労が多い割にはなかなかお金にならず、「これじゃあネットの出稼ぎ農民だ」などと嘆く、意外な苦労談などをご覧ください。
「水軍」と「団長」、そしてネットさくら:五毛党ライフへ【考えたこと】
まずは「QQ群」で「水軍」募集を探す。水軍とは末端で書き込みを担当する一兵卒を指す。水軍を束ねているのが「団長」。申し込むと、「じゃあやってみろ」と仕事をくれた。ある電気製品に関するコメント書き込みの仕事だ。40か所もの掲示板に、異なるIDで、10文字以上のコメントを入れなければならない。記入状況をエクセル表にまとめ団長へ返す。
(訳注:QQ群とは、中国でメジャーなチャットツール「QQ」のグループ機能。)
報酬は1コメントあたり2毛(約2.5円)。日払いで、アリペイを通じて支払われる。初日は緊張しつつも51個ものコメントを書き込んだ。これで10元(約125円)がもらえるはずと思っていたら、うち40個のコメントは無効だとの非情の回答!
(訳注:アリペイ(支付宝)とは、中国で最もメジャーなオンライン決済サービス。)
同じIPアドレスで書き込んだのがバレてしまったのだ。結局、収入は11個分、2.2元(約28円)だけ。この日の出費は電気代に加えて、ネット代6元(約75円)。昼飯代23元(約289円)。マッサージ60元(約754円)の計89元(約1118円)、大赤字だ!
(訳注:マッサージ行ったらそりゃ赤字だろ!)
もう失敗しないように、IPアドレスの変換方法を学んだ。メルアドも100以上ゲット。次の仕事はある牛乳ブランドを褒める仕事だ。90以上もコメントを書きこんでいるうちに、だんだんネタ切れになってきた。
そこで、「この牛乳は良いよ、メラミンも入ってないし、うちのいとこの子の腎臓もバッチリ。おしっこも普通に出ます(笑)」とコメントしたら、団長からえらいお叱りが!
「何やっているんだ!おまえのコメント見てみろ!」見ると自分のコメントの後には、「上に住んでいるうちのいとこの姉ちゃんもおしっこが好調!」みたいなバカコメントが続々!ほめ言葉にも「ある程度のレベルが必要」と諭された……。
仕事を続けてみたが、一日に130コメントも書き込んで、ようやく26元(約327円)の収入。これが「水軍」の平均収入だと言う。これじゃあ、まるでネットの農民工だよ。
(訳注:「農民工」は農村からの出稼ぎ労働者。3K仕事を担うことが多く、都市出身の労働者より低収入な場合が多い。)
「オレの彼女が裏切って他のカップルと……」でどう稼ぐのか?
こんな依頼もあった。「出張から帰ったら、彼女が男と女を連れ込んで3Pしていた!」というスレッドを盛り上げろというもの。「この話題を盛り上げて誰が儲かるんだ?」と思いつつ、次々とコメントしていった。
スレ主の男は書き込みを続けるうちにどんどん感情を高ぶらせていく。合いの手を入れる自分も段々「可哀想だな……」と感情移入していったのだが、その時、男は「わかった。オレの彼女は××出会い系サイトで探したカップルを連れ込んだらしいんだ。誰かアカウントを持っていないか?探し出してボコボコにしてやる!」と一言。そこでやっと気がついた。なるほど、この出会い系サイトの宣伝だったのか、。団長曰く、「こんなのはレベルの低いトリックだよ」だって。
そして五毛党から「ネットマーケティング」へ……。
じゃあレベルの高いトリックっていうのは何だろう?レベルが高くなると、「インターネットマーケティング」会社となって、組織的に「団長、水軍」を組織し、大金を稼いでいるのだ。
ネットマーケティンブ業界の総収益は2010年8億8000万元(約111億円)を記録している。大企業こそ少ないものの、マーケットは確実に大きくなっている。ある業界関連セミナーでは、昨年10月のネット中傷事件が話題となった。大手乳製品企業・蒙牛が、ライバルの伊利に対して、ネットマーケティング会社を使ったネット中傷攻撃をしかけていたことが明らかとなったものだ。
「ネットマーケティングに業界規範とかあるの?」と周りに聞くと「新しい業界で、法律も追い付いていないから、個人の道徳の判断だね」という答えだった。国務院新聞弁公室は、ネットマーケティングの混乱については政府指導者も注目しており、ネット水軍の管理について研究を重ねていると発表している。
さて、しばらくQQから遠ざかっていたある日のこと、団長から突然連絡があった。「おまえ、オレを騙しただろう!記者だったんだな!」といかりのコメント。「記者が水軍になっちゃいけないのか」と逆ギレして返答したが、自分のアカウントはブラックリストに入れられてしまったようだ。関係は完全に切れてしまった。