• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

菅外交は勝利したのか?日中首脳会談から読むレアアース問題

2011年05月23日

東アジア3カ国の首脳が集った日中韓サミット。ネットだと、温家宝がサクランボを食べた、イラストを書いた、SMAPを招待しただの、パフォーマンスのニュースばかりが目につくように思うが、、果たして菅政権は具体的な外交成果を上げることができたのだろうか。

例えば、昨年来一般ニュースでも取り上げられるようになったレアアース問題ではどうだろうか?

20110523_xitu2


菅外交の成果か?

2011年5月22日、日中韓サミットの前に、日中首脳会談が開催された。会談ではレアアース問題にも言及されている。

レアアース
菅総理から,中国からの輸出されるレアアース価格の最近の価格高騰について善処を要請した。これに対し,温総理から,WTOに基づいて,レアアースの輸出を適切に管理する旨述べた。

WTOルールに従って輸出を適切に管理すると言質をとったこと、これは外交的成果と言えるのだろうか?


レアアース問題ってどうなってるの?

5月13日に発表された日本経済産業省の『2011年版不公正貿易報告書』が、レアアース問題について、よくまとまっている。

原材料に対する輸出制限措置
<措置の概要>
中国政府は、多くの原材料品目について、輸出許可証を発給し、輸出可能な者、輸出可能な数量を管理している。例えば、コークスやレアアース等の輸出数量枠の推移は以下の通りであり、多くの品目について、輸出数量枠は年々削減される傾向にある。

20110523_xitu1

<国際ルール上の問題点>
GATT 第20 条(g)では、「有限天然資源の保存に関する措置」であれば例外的に輸出数量制限が認められる可能性がある旨を定めているが、同項ではその前提条件として「国内の生産又は消費に対する制限」が実施される必要があると定めており、このような国内での制限が中国国内で実施されているか不透明な部分があることから、GATT第11条及び第20条(g)との整合性につき疑義がある。

いくつかの資源について、中国は世界的な輸出大国となっている。レアアースやリンなどにいたっては、ほぼ世界市場を独占しているといっても過言ではない。

それは広い国土に多くの資源を埋蔵していることだけが理由ではない。(1)労働コストが安いこと、(2)埋め戻しや有害物資の管理などを考えない環境保護を無視した採掘によって、低価格を実現。他国での採掘を採算割れに追い込み、市場を独占したというケースもある。レアアースがその典型だ。

中国から安価な資源の供給を受けていた国、そして消費者はその恩恵を被っていたという事実は否定できない。だが、突然、輸出を制限され価格をつり上げられても、操業を停止していた他国の鉱山を再稼働させることは容易ではない。安売りで近隣店舗を潰した後にじっくり値上げする大型スーパーのようなものだ。

また、輸出は制限しつつも、国内での利用は制限しないという中国の政策も批判されてきた。「日本の工場が中国国内に移転すれば制限はなくなりますよ」と産業移転を促す手段と目されてきたが、これは世界貿易機関(WTO)原則に反する。上記経済産業省報告書では「GATT 第20 条(g)」違反と具体的な項目をあげて指摘している。

なお、輸出量規制とは別なのだが、昨年9月には日本向けのレアアース輸出を急きょ差し止めたとも報じられた。こちらについては、「中国レアアース規制、何が問題なのか?=ふるまいよしこさんの批判に応えて」の「輸出割当と輸出禁止、二つのレアアース輸出規制について」を参照されたい。政治的報復目的での輸出禁止は明らかに貿易ルールに違反しており、こちらの件に関しては中国政府の非は明らかだ。


「WTOに基づいて」の意味

さて、日中首脳会談では、温家宝首相は「WTOに基づいて,レアアースの輸出を適切に管理する」と発言している。これは輸出量割当政策について何らかの変更を意味するものなのだろうか?

首脳会談の3日前、19日に中国国務院は「国務院によるレアアース協会の持続的・健康的な発展の促進に関する若干の意見」を発表した。全22条からなる通達は、原則から規制、業界再編、環境保護の啓蒙などを広い範囲を含んだ内容。興味深いところでは、中小企業が多い南方のレアアース企業を上位3社に集約する、加工度の低いレアアースと鉄の合金の輸出も禁止することなどが盛り込まれた。
(集約については「中国、南部のレアアース企業3社に 国家管理を徹底」(日経新聞、19日)、鉄合金については「中国政府のレアアース輸出規制が無効化=法律の抜け穴突く中国人の「智慧」」(KINBRICKS NOW、2010年10月10日を参照。)

そして、同通達では輸出量割当政策を堅持するとともに、今後は中国国内での総採掘量も規制する方針を示した。上述の『2011年版不公正貿易報告書』の指摘に応えた格好だ。また、2011年5月21日付人民日報海外版は記事「中国のレアアースはわずかに20年分しかない=レアアース輸出規制はWTOルールに則っている」を掲載。中国の輸出規制政策は、希少資源保護としてWTO原則の例外規定に則したものと主張している。


レアアースをめぐる争い、今後は?

中国が国内の総採掘量を制限する方針を示したとはいえ、その具体的な数値が明らかにならないかぎり、WTO違反の疑いを払拭することはできない。10万トンの採掘を認可したうえで輸出を3万トンしか認めない、というような状況になれば、違反要件を満たす可能性もある。

その意味で、日中首脳会談での言質は、レアアース問題の完全解決をもたらすものではなさそうだ。とはいえ、日本側の主張に注目させ、完全ではないにせよ返答させたのは一歩前進。菅外交の成果に数えてもいいのではないだろうか。

また、「国務院によるレアアース協会の持続的・健康的な発展の促進に関する若干の意見」は大綱であり、実効性については、今後発表される総採掘量の数値や細則、あるいは運用を見ていく必要がある。中国の規制が効果をあげレアアース価格が大きく上昇すれば、他国での採掘再開や代替物質の開発を進める必要があるが、合金にしたうえでの輸出のような抜け穴が残るようだと、対抗策が採算割れする可能性もあるためだ。

レアアースをめぐる争い、今後も中国政府、日本政府、中国採掘企業、他国の製造メーカーなど多くのプレイヤーの駆け引きが繰り広げられる複雑な戦いが続きそうだ。


トップページへ


コメント欄を開く

ページのトップへ