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中国で農業に取り組む日本企業=「外資に警戒せよ」と中国メディアがやり玉に―北京で考えたこと

2011年05月25日

【中国の食糧ナショナリズムの焦りか!?:日本企業の農業分野投資を巡って】

食糧確保は国家戦略問題。最近の穀物高騰一つを見ても、この事実を否定する人はいないでしょう。中でも中国は他国以上に強く懸念を表明している国の一つです。膨大な人口を抱えているだけではなく、食糧生産をうまく管理できていないこともまた、焦りにつながっているのではないでしょうか。そう感じさせられた記事をご紹介します。

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朝日緑源の乳牛たち―牛糞から作る堆肥も使う循環農業を掲げています。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


アサヒビールなど日本企業が出資する、山東省の農業企業・山東朝日緑源農業高新技術有限公司について、
経済参考報が報道。その後、南方週末も関連記事を発表しました。論拠薄弱なまま、記事は「外資による、中国での農産品生産・輸出の動きに警戒せよ」と排外主義的論調に……。以下は、経済参考報の記事を抜粋した南方週末サイトの記事抄訳です。

日本企業:農耕のため中国へ行く!
南方週末、2011年5月23日

アサヒビール、住友化学、伊藤忠商事。世界トップ500企業に名を連ねる大企業3社が出資する山東朝日緑源農業高新技術有限公司。5年前に山東省莱陽市に進出し、農業生産を行っている。

外資による農業生産サイクルへの参入は、農業の国内資本独占を打破することを意味する。今や外資系企業は「販売人」から「農場主」と姿を変えてきているのだ。同社は今後、生産拠点を3000ムー弱にまで拡張する計画だ。また、アサヒビールの瀬戸雄三・最高顧問主席は同様の生産拠点を中国国内で20~30か所に拡大する意向を示している。
(訳注:瀬戸氏の肩書きは原文「最高咨询主席」のママ。同市は元アサヒビール会長。)

朝日緑源と農民の契約の内容を紹介しよう。農家は村を単位とした合作社を結成。その上で莱陽市と沐浴店鎮がアサヒと契約を結ぶ。土地利用契約は20年間満期。契約料は、最初の5年間は800元(約1万100円)/ムー(訳注:1ムー=1/15ha)。その後、5年毎に200元(約2520円)ずつ増やしていく。

現在の実質占有面積は1500ムーにまで拡張された。将来的には3000ムーにまで拡大する。朝日緑源は青島や上海のスーパー向けに高所得層を対象とした高級牛乳、イチゴなどを生産している。牛乳は18元(約227円)/リットル以上、イチゴは140元(約1760円)/キロ以上もの高価格だが、まだ利益は出ていない。会社は毎年220万米ドル(約1億8000万円)もの損失を計上している。

沐浴店鎮共産党委員会書記は、「いまだに良く分からない」と経済参考報記者にもらした。「朝日緑源は全然利益にこだわっていないようだ。これほどの金額を投資し、5年もたったのにまだ利益も出ていない。利益を追求している世界500強企業が、利益率の低い農業生産に参入してくるのは、いったい何を目的としているのか?」

秦慶武・山東省省情研究センター主任(元山東省社会科学院農村研究所所長)は言う。土地は中国の希少な資源。外資の参入が増え、長期の土地賃貸契約を結び、日本など海外に農産品を輸出するようなことになれば、それは中国の資源を侵犯することであり、中国の農地が外国のための農産品生産基地になってしまうのだ、と。

李昌平・河北大学中国郷村建設研究中心主任も、ハイテク技術の導入を理由に外資を導入すれば、結局は「外国に譲る」ことになってしまうだろうと警告している。
(訳注:李昌平
氏の発言については「ハイブリッド米への過剰依存は危険だ=“あの”李昌平が公開書簡―北京で考えたこと」を参照。)

【考えたこと】


自分自身も朝日緑源には何度かお邪魔させて頂きました。もちろん課題は色々ありますが、「循環農業」理念を追求しようと努力されている会社です。個人的には異国の地で頑張る日本の農業者を応援したい気持ちですし、北京在住者として同社の牛乳をよく飲んでいます。
(朝日緑源への訪問については、ブログ「北京で考えたこと」の記事「循環農業による新しい中国農業への取組み」を参照)

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朝日ブランドの牛乳。確かに高価ですが、中国ブランドの数々の問題もあり、北京で飲ませてもらってます。

お世話になっているからというわけではありませんが、きちんと現地の法律に従い、高所得層向けとはいえ中国の消費者にも受け入れられている朝日緑源を取り上げて、「外資を警戒せよ!」と突然言い立てるのはあまりに唐突です。

そもそも朝日緑源の日本向け輸出量はどの程度あるのか(現時点ではほぼ全量が中国向けのはず)も紹介せず、状況証拠だけで批判するレベルの低いルポだと感じました。私は南方週末の愛読者ですので、紙版にはこのまま掲載しないで欲しいと願っています。

さて、残念に思う一方で、この記事が生み出された“空気”については深読みしたくなります。

先日の温家宝総理訪日で、日本製農産品の対中輸出が緩和に向かいかけたタイミング、ナショナリスティックなムードにつながりやすい日本企業という対象、そして粉ミルクなど一部製品が海外企業にシェアを奪われている状況、食品安全問題など課題山積みの中国食品産業の構造などなど……。

これらの問題が妙な化学反応を起こして、誤解に基づいた変な展開につながらなければいいと願うばかりです。今後、記事がどのように転載されていくのかなどを注意する必要があるかもしれません。Yahoo中国に転載された記事は、すでに相当数のコメントを集めているようです。

また、外資の中国進出をやり玉にあげる一方で、中国企業もまた、アフリカなど他国での農業生産に取り組んでいるとも報じられています。その意味ではやぶ蛇にもなりかねない記事でもあります。南方の干ばつが報じられる中、物価高など食糧確保については過敏になっている中国の世相を反映した記事なのかなと考えています。


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 コメント一覧 (3)

    • 1. マネ
    • 2011年05月25日 21:53
    • 不安から香港へ買い物にいく人も多いから、中国の消費者にとってありがたいことですが、
      ま、この何年間で南方週末のレベルも落ちましたね。10年前の愛読者として最近こんな気がします。
    • 2. いまじゅん
    • 2011年05月25日 22:34
    • マネさん>

      本文書きましたいまじゅんです。今でも南方週末を読んでいて、取り上げるトピックなどの他紙との違いや踏み込み方などは健在かと思ってはいるのですが、数年前とは違うんでしょうか…。ネット版ではちょっと色々試してみちゃっている、或いは全体のQCも甘めなのかなと、明日の紙版を駅で買うのが少しドキドキです。
    • 3. マネ
    • 2011年05月26日 00:21
    • いまじゅんさん

      私は南方週末を読み始めるのは高校生の頃です。一番印象に残った話しは1999年の五八事件あと、「讓憤怒給我們力量,讓理智給我們方向」のタイトルです。反米の嵐の中では貴重な声だと思います。
      2001-2年頃か、編集長たち解任されだから、このあと、文章の鋭さも理性の面もどんどん少なくなり、途中半端のような気がする人も結構いるはずです。

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