爆発スイカの余波
日本でどれほど話題になったのかわかりませんが、個人的に今月一番気になったニュースがこれです。
不思議なスイカ爆発事件=ナゾの“膨張剤”は日本でも普通に使われていた―中国(KINBRICKS NOW、2011年5月19日)先日買った新聞に、“爆発スイカ”関連ニュースが載っていたので、ご紹介します。
*画像は華声在線の報道。*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。
“爆発スイカ”の風評被害
“爆発スイカ”市場で販売量が3割落ちる(京華時報、2011年5月24日)(妙訳)
「もともとスイカってのは大きいほど売れるんだけど、今は大きいもの売れないんだ」と北京市・双橋市場のスイカ卸・王さんは嘆いた。
“爆発スイカ”の報道と季節的要因のダブルパンチで、スイカの売り上げはこの一週間というもの、3分の1も減少した。値段は500グラムあたり2.5元(約32円)から1.5元(約19円)まで下落している。王さんによると、以前は1日5万キログラム売れていたスイカも、今では1~1.5万キロ程度しか売れないそうだ。
(注:季節的要因の理由は書かれていない。今年は例年より暑くないということを指しているのだろうか。)
”爆発スイカ”については、「ホルクロルフェニュロン」(植物ホルモン「サイトカイニン」を人工的に作り出したもの)が「膨張剤」として使われたことが問題だったと報じられ、人体にも悪影響があるのではとの懸念が広がっている。だが、これはまったくの誤解だという。
中国農業科学院の陳副主任によると、すべての植物は、自ら植物ホルモン「サイトカイニン」を生み出す力がある。つまりあらゆる野菜や果物、そして穀物には「サイトカイニン」が含まれているし、これが含まれていなければ植物は生長することができない。そして、サイトカイニンは「植物の生長を調節するだけで、人体には何の影響もない」のだという。
もちろん、「膨張剤」は人が植物に添加したホルモン。いかなる化学合成物には毒性があるということを考えれば、ホルモンの残留基準値を定め、人体と環境に悪影響がでないようにする必要性はある。
“爆発スイカ”騒動を受け、膨張剤とは無関係なスイカ関係者まで風評被害を被り、死活問題へ発展しています。
スイカが売れない!農民の悲鳴
四川のある農民は、マイクロブログ・新浪微博でこんなツイートを流しました。

『うちのスイカは甘いし食感が良いし毎年たくさん売れてるよ。今年はあの「膨張剤でスイカ爆発」のニュースでヒドイ被害だ!今じゃ数万斤のスイカが畑で実ったまま腐っている。このままダラダラしてたら全部腐っちゃう!心ある人はこのつぶやきをリツイートしてください。去年は1斤1.2元(約15円)で出荷していたけど、今年は0.3~0.4元(約3.8~5円)で売るよ。腐らせるよりマシさ』
ニュースソース:スイカ農家が微博で潔白を訴えスイカを売る(成都晩報、2011年5月24日)
発言者の望み通り、このつぶやきは8時間足らずで2万6000回もリツイートされました。
爆発以前の問題今回のスイカ不買騒動の原因を“爆発スイカ”ひとつに求めるのは酷な気がします。スイカなんて昔から問題が多かったでしょう。
スイカと聞くとボクが思い出すのは、留学先の中国人民大学の校門前にやってくる軽トラです。軽トラに積まれた無数のスイカはスーパーで買うよりも安く、しかも先輩から
「どこどこの軽トラのスイカは美味い」という情報を仕入れていたので暑い夏は世話になりました。
大学前に車をつけて商売をする彼らがどういう人間かは言うに及びません。城管(警察権力を持つ都市管理員)が来たら客を置いて逃げていく、そんな人たちです。
住んでいる場所のおかげもあったのか、幸いにもボクは今まで問題のあるスイカを買うことはなかったんですが、過去にこんな人を嘗めたスイカが世に出たことがあります。
それが
“注水スイカ”です。
問題スイカシリーズその1:注水スイカ
「煙台消費者協会が警告=消費者は注水スイカに注意せよ」斉魯晩報、2010年7月26日注水スイカとは、「水を注射して重量を文字通り水増ししているスイカ」です。喰ったら腹を壊すと言われていますが、切ったら真っ赤な液体がこぼれでてくるので、一目で危険とわかります。喰って味を確かめる必要はないでしょう。
こんな粗悪なスイカに引っ掛からないためには露天などではなく、信頼の置けるお店で買えばすむことです。
軽トラ、ワゴン車、手押し車などを使って移動しながら果物等を売っている行商人たちは大抵無許可で営業しています。彼らが売っている品物は美味しいかも知れませんが、出所も知れず衛生状態も保証できない果物です。しかし近所のスーパーよりも安く買えることがあるし、露天商や手押し車で並んでいる方が美味しそうに見えるということもあり、ついつい買ってしまいます。
問題スイカシリーズその2:イカサマ重量計しかし怪しいスイカを買わないように自衛を心掛け、スイカの外見や中身に目を凝らしても騙されてしまうことがあります。
それが
“イカサマ重量計”です。スイカの重さを量る秤が細工されていて、目盛りが実際よりも多めに表示されるようになっています。客は針が指す目盛りを信じて高い金額を払うことになります。
「業界の秘密を暴露!アップグレードされた「イカサマはかり」」東北網、2009年11月3日昔ながらの分銅を使った天秤ばかりはもちろんのこと、計量結果が1グラムまできちんと表示されるデジタルの重量計であっても、信用できません。2009年7月29日付三峡晩報の記事「
電子はかりの計量も自由に変更可能」では、パスワードを入力すると実際より重く表示される重量計が使われていると報じています。
6キロのスイカを8キロだと言われても、見抜くのは至難の業です。この“イカサマ重量計”はそこを狙った小狡い手口と言えるでしょう。
“爆発スイカ”も
“注水スイカ”もそして
“イカサマ重量計”も、発想の根底にあるのは『重さ』です。中国では肉や魚そして野菜や果物など、食料のほとんどが1斤(500グラム)いくらで量り売りされています。高級デパートだろうがスーパーだろうが市場だろうが無認可の露天だろうがそれは変わりません。スイカも同じなのです。
爆発スイカで吹き飛んだ信用爆発スイカ報道で、売り上げが3分の1減少したとのことですが、思うに各種イカサマ・スイカに対する不信感が今回の一件で可視化されただけで、もともと火種はあったと考えるべきでしょう。
「うちは膨張剤を使用していません」という農家の宣言は涙ぐましいものがありますが、それだけで身の潔白を証明するのは難しいでしょう。スイカを叩いた音で甘さがわかると言いますが、今ではどれがちゃんとした普通のスイカなのかを見抜くのが困難です。実績のあるまっとうなお店で、そして何より通常の値段で買うという選択肢がベストなんでしょうが、それは手堅すぎてつまらないですし、何より家計に響きます。
気に入ったスイカがあったら買ってみて、切ってみて食べてみたら美味かった。
そういう楽天的な感想が言えるようになるためにどうすればいいのか?生産者と販売業者と消費者それぞれが『正当な対価』を享受するためには何をすればいいのか?今回の“爆発スイカ”の事件が食の安全性を見直す良い機会になればと思います。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。