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政治改革主張の温家宝が孤立=人民日報が批判論文掲載―中国コラム

2011年05月26日

政治改革を巡る党内の対立激化

2011年5月25日、『人民日報』に「党の政治紀律を守れ」とするコラムが掲載されました。紙面では4面とあまりいい扱いではないものの、「民族分裂活動や違法な宗教活動、違法な組織に参加し、党と国家のイメージをデマで潰そうとし、反動的な発言を拡散する党員、幹部は規律と法に基き、厳しくに審査する」と過激な言葉が並んでいることは驚きです。

胡錦濤が2008年に言い出した「決して許されない6か条」を再度徹底させる、党員向けの戒めとなのですが、今更なぜ?と不思議な思いがします。

20110526_political rule
人民日報の報道。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

人民日報論文と「決して許されない6か条」

党の政治的規律を断固守れ(人民日報、2011/5/25)

党の政治規律を守ることは、厳粛な政治的闘争である。現在、一部の党員、幹部の紀律観念は薄く、政治紀律の違反問題もいまだ起きている。

極少数の党員、幹部は党の基本理論、基本路線、基本綱領、基本的経験に関わる重大な政治問題であれこれ言い、中央の決定や要求に面従腹背し、無責任に噂をし、さらには政治的なデマを拡散し、党と国家のイメージを壊し、幹部と大衆の中に悪影響を及ぼすものがいる。これらは全て党の政治紀律の許されざるところだ。

各級党組織の広範な党員は、真剣に党の基本的理論、路線、綱領、経験を学習し、党の意識、目的意識、執政意識、大局意識、責任意識を高め、政治的鋭敏さと判断力を高め、政治紀律の糸を張り、政治的立場を固め、党の指導を少しも揺らぐことなく堅持し、中国の特色ある社会主義の道を歩み、党の基本路線を堅持し、自覚して党中央と思想上、政治上、行動上において高度に一致しなければならない。
普通に読めば、党員の心が党中央と離れていますと言わんばかりの社説であります。

肝心の「決して許されない6か条」は以下の通り。

・群衆の中にあって党の理論や路線、方針、政策に反する意見をばら撒く事

・公にあって党中央の決定に相反する発言を発表する事

・中央の方策に対し面従腹背をする事

・政治的なデマをでっち上げたり、党と国家のイメージを壊す発言を広める事

・いかなる方法であれ党と国家の秘密を漏らす事

・様々な違法組織や違法な活動に参加する事

論文の批判対象は温家宝

この6か条に違反すれば、「どのような党員であれ、党内の権威と職務がどれほど高くても」、決して容赦はしないし譲歩もしない、厳しい批判教育と紀律処分が待っている、と脅しているわけです。この記事ですが、一般党員の紀律の乱れを念頭に置いたものではなく、温家宝に向けられたものでしょう。

昨年来、温家宝は1人で政治改革を唱え続けました。また、呉邦国が全人代の委員長報告で三権分立、二院制、多党制などに反対した「5つのやらない」を発表。当初、私はこれらの動きがジャスミン革命を意識したものだと思いました。

ところが、温家宝は全人代最終日の記者会見で「政治体制の改革を推進しければ、これまでに得た成果も失う危険がある」と発言。呉邦国の「5つのやらない」に反論していたのです。今思えば、党中央内部の政治改革を巡る対立が全人代で明らかになるという、故・御家人さんならずともわくわくしてしまう出来事だったのです。


衝突事故船長の放談インタビューから透けて見える、温家宝の四面楚歌

人民日報といえば、過去、温家宝発言に対抗して「正しい政治方向の堅持」を連呼。「政治体制改革の停滞などという見解は事実と合わない」と正面から批判を浴びせていました。今回は、中央紀律検査委員会名義での温家宝批判論文。中紀委トップの賀国強本人の意向を無視して中紀委名義を使うことは無理でしょうから、賀国強も政治改革反対派に転んだと見るべきでしょう。

また、温家宝は米CNNや香港メディアなど、中国本土メディア以外での発言が目立つのですが、このことから中国共産党首脳陣のメディア担当、李長春が政治改革寄りではない事がうかがえます。先日、香港紙『明報』は、尖閣沖中国漁船衝突事故の中国人船長インタビューを掲載。環球時報が転載しています。一方で香港メディアに掲載された温家宝発言についてはだんまりを決め込んだわけですから、意図的な待遇の差と受け止めるべきでしょう。

ちなみに、中国人船長インタビューの内容ですが、「海保に蹴られた」「向こうからぶつかってきた」という他愛のないもの。とはいえ、温家宝が日中友好回復への第一歩と位置づけていた日本訪問の直後にぶつけており、、訪日に水を差す内容であることは間違いありません。胡錦濤の機関紙である中国青年報も、環球時報の記事を転載しています。

つまり、中国共産党の最高意志決定機関・政治局常務委員9人の中に、温家宝支持を明確にしている者はいないようです。温家宝は当分孤独な戦いを強いられそうです。それにしても、政治局常務委員同士のガチ政争をこの目で見られる時が来ようとは……。

*参考
温家宝「政治改革が無ければ、経済体制改革も成功しない」(新華網、2011年3月14日)

呉邦国「国家の根本的精度など重大な原則は動かない」(中国網、2011年3月10日)

正しい政治方向に沿い、積極的かつ穏当に政治体制改革を進めよ(人民網、2010年10月27日)

温家宝「政治改革の歩みは死ぬまで止めない」(中国青年報、2010年10月11日)

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

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