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三峡ダムが干ばつを招いた?「世界一のダム」に与えられた過酷な試練―中国

2011年05月29日

長江の中・下流域を襲う深刻な干ばつ。そうした中、改めて三峡ダム問題が注目を集めている。

干ばつ地域の要請及び長江の水運を維持するため、三峡ダムは5月7日以来、放水量を増加させている。7日までの放水量は秒速7000立方メートル。現在では1万1000立方メートルを記録した。しかし、それに伴って水位は低下。三峡中枢建設運行管理局運行処の王海処長は、このまま行けば放水可能な水は6月10日までに底をつくと話している(29日付文匯報)。


DSC_0512 / dickylau930


「世界一」の三峡ダムに失望

巨費を投じて建設された「世界一」の三峡ダムが、今回の干ばつに対して無力な姿をさらしてしまったことに失望感が広がっている。29日付科技日報は、中国水利部洪水干ばつ対策災害被害減少研究センターの程暁陶・常務副主任のインタビューを掲載。この問題に応えた。

程副主任は、追加放水が可能な水が底をついたとしても、三峡ダムへの流入量と同じだけの放水は可能だと話し、「三峡ダムから水が供給されなくなる」とのうわさは過剰な反応だとコメントしている。一方で、現在の干ばつは雨期の到来が遅れていることに由来するものであり、解決には降水が不可欠。三峡ダムの機能に過度な期待は抱かないで欲しいとも話した。


干ばつは三峡が招いた

だが、この説明だけでは人々の不信感をぬぐい去ることは難しそうだ。それどころか、三峡ダムこそが今回の干ばつを招いたとの主張がネット掲示板に書き込まれ、注目される事態も起きている。29日付羊城晩報によると、
高校地理教師を名乗る人物がネット掲示板に「三峡ダム干ばつ誘発論」を書き込んだという。

その主張によると、巨大なダム湖ができた三峡地区の上空には低気圧が出現。それが例年より早い段階で北太平洋高気圧(ハワイ高気圧)を引きつけ、長江の中・下流域から雨期を消し去ってしまったのだという。専門家は否定するが、信じる人は少なくないようだ。かつては「三峡ダム湖の重さが近くに圧力を及ぼし、四川大地震を引き起こした」という“説”が注目されたこともあり、三峡ダム悪玉論の復活と見ることもできるだろう。


中国政府も認めた三峡ダム悪玉論

先日、「中国政府も三峡ダムの弊害を認めた」とのニュースがネットを駆け巡った。「四川大地震はやっぱり三峡ダムが起こしたんや!」とタイトルだけで勘違いした人もいたのではないだろうか。19日付ロイターは次のようにまとめている。

中国国務院は18日、世界最大の三峡ダムついて「中国国民に利益をもたらすが、同時に100万人以上の住民のスムーズな移住や、環境保護、災害対策など緊急に対応すべき多くの課題もある」との見解を明らかにした。中国政府が三峡ダムに問題が存在するのを認めたのは異例のこと。

温家宝首相主宰の国務院常務会議がこの見解がまとめたもので、このほかに長江下流域の輸送、かんがい、水供給といった問題もあると明らかにした。

詳細については触れていないが、地震や干ばつの誘発というあやふやな問題はともかくとして、水質悪化などの環境問題についてはすでに見過ごせぬものになっている、と考えてもよさそうだ。また、大規模な住民移転の問題性を認めたのも、(手遅れとはいえ)重要なポイントと言えよう。


干ばつよりも怖い洪水リスク

上述の科技日報インタビュー記事で、程副主任は三峡ダムの問題が本当に問われるのは干ばつよりも洪水ではないかと指摘している。

それというのも長江中・下流域の洪水多発期は5~6月、上流域は7~8月と本来はずれていたが、今回の干ばつが「雨期の遅れ」だと考えた場合、上流から下流まで同時に洪水が起きる可能性があるという。となると、三峡ダムの決壊を防ぐため、洪水の中・下流域に向けて放水するという最悪のシナリオまで考えられることになる。

「50年に1度」「100年に1度」と称される深刻な気象災害が、ほぼ毎年のように発生する中国。「世界一」のダムとして、人々の過剰な期待を集める三峡ダムにとっては厳しい事態が続きそうだ。


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