内モンゴルが民族衝突寸前に内モンゴル自治区で民族衝突に発展しかねない事件が進行中です。チベットやウイグルに続く大規模な事件に発展する可能性もなくはないので、当局の対応が注目されます。
科尔沁草原 科爾沁草原 / cyesuta
■モンゴルの行政単位と事件の経緯
まず、中国の他地域と異なる内モンゴル自治区の行政単位について。聞き慣れない独特の呼称でちょっと混乱してしまったので整理します。
内モンゴル自治区(省に相当、首府はフフホト市)
↓
シリンゴル盟(首府はシリンホト市)
↓
西ウジムチン鎮(首府バヤン=ウル=ホト)、正藍旗(ドンド・ホト)
経緯については、ツイッターでもお世話になっている
うらるんたさんのブログが詳しすぎるので、こちらを参照してください。何も付け加える事はありません。私は抗議活動に対する当局側の動きを見ていきます。
[モンゴル]シリンゴルで何が起きているのかの経緯まとめと30日の抗議活動■終わらないデモ
内モンゴルの民族抗議は5日目へ(2011/5/27、BBC中文)
内モンゴル西ウジムチン、正藍旗で抗議デモ女子生徒が轢かれる(2011/5/27、博訊)
26日の抗議デモでは、武装警察、対暴動警察が故意にデモ隊の中に車を突っ込ませる事件が起きました。女子学生4人が負傷。うち1人が両足粉砕骨折の重傷です。
そも、ひき逃げ事件が発端となったデモなのに、それを思い起こさせるような軽率な挑発をやってしまうとか、アホ過ぎて言葉が見つかりません。ちなみに女子学生をひいたのは旗長の車だとか。負傷者は全員、旗長と一緒に病院へ直行。
シリンゴル盟の住民によると、現地は27日から警官が街中を巡回する姿が目立つなど事実上の戒厳状態に入ったとのこと。バスも運行を停止するなど前日までとは一変した状況を伝えています。商店や学校、幹線道路も封鎖されているようです。
また、内モンゴル人権ニュースセンターは、モンゴル族学生のデモ参加を阻止するため、正藍旗の全ての学校に対暴動警察が入ったと伝えています。
■西ウジムチン鎮トップの解任
内モンゴル自治区共産党委員会、西ウジムチン鎮党委書記・海明の解任を決定(2011/5/28、内蒙古日報)事件の対応を責められたのか、はたまたデモ隊への特攻を指示したことがレッドカードとなったのか。西ウジムチン鎮トップが解任されました。しかし、何故かはわかりませんが、このニュースはいったん報道された後、削除が続いているようです。ちなみに後任の斯琴畢力格はモンゴル族。同じシリンゴル盟のアバグ旗党委員会書記からの横滑りです。
■自治区トップが学生と対話
胡春華・内蒙古自治区党委書記、緊張緩和へ向け学生と対話(2011/5/29、BBC中文)
27日。当局の相次ぐ失態を挽回しようと、、内モンゴル自治区のトップである胡春華・党委員会書記が、西ウジムチン鎮の高校生と対話したと内蒙古日報が報道しています。
「民衆の利益は全てに優先する」とか空気の読めない記事を書いてしまう、役立たずの機関紙なのですが、記事によると、胡は「2件の事件は共に容疑者が逮捕されている。司法部門が事件を審理中だ。先生や学生の皆さんは安心して欲しい。容疑者は法にもとづいて、速やかかつ厳正に処罰し、法律の尊厳と被害者及び遺族の権利を断固守る」と語ったとのこと。
また、鉱山開発と群衆の利益について正しく処理する事を約束。「発展は第一の任務だが、民衆の利益が保護できなければ発展も持続できない」と語ったそうです。とはいえ、30日に予定されている自治区首府・フフホト市での大規模な抗議活動に、胡と学生の対話がどういった影響を与えるかはよくわかりません。
■30日の抗議デモ対策、自治区の大学を封鎖
内蒙古首府フフホトの学生が外出禁止に(2011/5/28、博訊)5・30集会阻止へ内蒙古各大学が封鎖(2011/5/28、博訊)フフホト市内の大学生を対象として、禁足令が出ました。集会も禁止。学校側に手落ちがあれば、教師はクビになるとのこと。学生への監視はかなり厳しくなっていそうです。
民族の別なく、学生は監視されるのでしょうが、やはりモンゴル族学生への視線は厳しさを増すでしょう。とばっちりを食らった漢族学生との間に軋轢が生じる可能性も。新しい衝突の火種になりそうですね。問題が変質しかねないのが民族衝突の怖い点です。少数民族への優遇政策を目の敵にした漢族と少数民族の衝突は、これまで何度も起きています。しかも、今回は多感な学生がターゲットです。
なお、通達が出たのは26日ですが、デモが始まった25日時点で、学校側は臨時テストや卒業試験の日程変更などを編成。出席しなければ卒業や成績に影響すると学生を脅しています。また、モンゴル族学生からシリンゴル盟の公務員試験が5月30日に前倒しされたとも伝えられています。公務員になりたければ、デモに参加するなということですね。
デモ回避に取り組む胡春華の気迫が伝わってきます。確かに、もし大規模なデモが起きれば、新疆ウイグル自治区の王楽泉同様左遷されてしまう可能性も。若くして政治生命は終了するかもしれません。
■約1兆円の「アメ」を投入
今年度の資金投入は788億元(2011/5/29、人民日報)
29日付人民日報の1面で、突然、内モンゴル自治区への懐柔策が発表されました。前年比54%増となる788億元(約9830億円)もの「アメ」を大判ぶるまい。いや、それどころか、「この金額は最終的な数字ではない。(最低生活保障レベルの引き上げなど少数民族への支援に)投じられる資金はこの数字を確実に超える」(常軍政・自治区財政長)と露骨な懐柔策を打ち出しました。
しかし、そもそもの問題である現地の環境破壊についてなんら言及されていません。資金援助のみを強調しているところを見ると、「発展は絶対的な道理」(發展是硬道理)が、誰にでも通じる手段でないことを理解できないことは明らか。だからこそ、こうしたバラマキ支援策で懐柔できると思うのでしょう。
■問題解決に中央政府が介入か
胡春華にとってはかなりの試練だという見方もあるでしょう。ですが、胡春華が受け持つのは、30日のデモ阻止までではないでしょうか。人民日報が支援策を発表してことから考えても、主導権はすでに党中央の手に移っていると思われます。
内モンゴル自治区の独力で1兆円近い支援策を負担することは無理でしょう。胡春華は中国共産主義青年団(共青団)の若手エース。団派の先輩である胡錦濤にとっては貴重な手駒です。対処ミスで潰してしまうわけにもいかず、胡錦濤にも悠長に構えらていられるほどの余裕はなさそうです。
ですので、党中央が責任を持つのではないかと考えています。ただ、「發展是硬道理」のバラマキ懐柔策が功を奏しないんだったら武力行使だ、となるのだけは勘弁して欲しいのですが。