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2011年05月30日
■省長が視察した日の昼食
19日、河北省省長が河北工業大学を視察し、学生と一緒に食事するというスケジュールが組まれました。この件について、学生が「省長が来た日の昼食」というタイトルで、ネット掲示板に書き込んだことが話題となり、メディアにまで取り上げられることになりました。
書き込みによると、17日に省長が学生と一緒に食事するとの学校に通知されたとのこと。翌18日午後には学生は集団で訓練を受け、19日午前11時には食堂で待機するよう命じられました。なお、食堂には「あらかじめ割り当てられた者」のみしか入れなかったそうです。
指定された学生はただで食事できたようですが、省長が来るのを待たねばならず、メシが冷めてしまったのだとか。それ以外の学生も食堂に行ったら封鎖されていた、7~8個の机が積まれていて締め出されたとこぼしています。
また、タダメシが食べられた学生以外も、この日は学食料金が安くなったそうです。普段は3.5元から4元位(40~45円)のところが、2.5元(30円)均一になったとのこと。私も学生時代はひたすら腹を空かせていましたが、中国人学生も日本人同様、空腹かつ貧乏なので、10円程度の値引きとはいえ、ありがたいものだったのではないでしょうか。
なお、記事は「河北工業大学宣伝の林部長は、学生に対し省長と食事をとるように割り当てたことを否定した」と書いて終わり。それ以上は突っ込んでいません。
■大学の対応に批判
この記事はそれなりに話題になり、いろいろなところに転載されていました。ですが、省長がらみということからか、『新浪網』などかなりの記事が消されています。ただ、食べ物の恨みは恐ろしいというやつで、この問題を取り上げたブログも結構あります。
「省长来了,大学生何以吃上好菜低价菜!?」(省長が来れば、大学生はうまくて安い食事を食べられる?!)というエントリーは、タイトルこそおちゃらけているものの、内容はまじめなもの。大学の形式主義を批判するものです。「大学とは民主的で、さまざまなものを受け入れるところであり、学生の自由と思想を尊重しなくてはならない。人を驚かせるようなひどい校則や、虚偽、学生をないがしろにするようなことは禁止しなければならない」と批判しています。
■中国人のメンツ
これまでも何度か取り上げましたが、中国人はメンツを重んじますし、ウチとソトの区別をはっきりつけます。つまり、ウチである学生に対しては多少の無茶ぶりも平気ですが、ソトである省長に対しては、とりわけ学校やや自分の評価と出世が絡んでいる場合には、いいところを見せて、メンツを保とうとするのです。なので、今回のネタもとりたてて不思議な話ではありません。
しかし、メンツを保つとは、つまり「建前を守る」ことですし、ソトの者に対する見栄も結局は建前です。上述のブログのように、「大学は学生のためにあるのではないか」「民主的な場所であるべきでは」と正論を言われると、建前では反論しようがなくなってしまいます。
学生と省長を比べれば省長が大事に決まっているのでしょうが、そうは言えないのが建前の恐いところです。大学も共産党が支配する場所であり、民主的ではないのは誰もが知っていることですが、そうは言えなくなってしまうのと同じことなのです。
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。