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2011年05月31日
■王道を避けた物語、でもちょっと……
本格推理物だとははじめから思っていなかったが、しかし上京した者と田舎に残った者との格差やコンプレックスを暴く社会派でもない。なんだか小奇麗にまとまった感の強い小説になっている。
村から出た者も、村に残った者も成功してひとかどの人物になっているのは、物語を安易な復讐譚にさせない構成だろう。ゆえに主人公たちが狙われる原因も犯行の動機もわかりにくい。ただ、王道展開を選ばなかったにしては、それにふさわしい結末だったとは評価できない出来だ。
肝心のトリックは、絶海の船上という舞台と日付を利用した時間差トリック。なるほど作中に細かく日時の進行が書かれていたのだから、その可能性を見落とし
ていたのは読者の怠慢だったと反省。顔のない死体があれば死体の入れ替えを疑うのは常道であり、時間経過を細かく描写していたら時間差トリックが仕掛けられているのが確実なのだから。
明らかにされた犯人の動機は、十数年潜んだ末の執念の復讐のわりには弱く、殺された幼馴染たちもそれほどの過失があったようには感じられない。また、ラストに真犯人の正体が明かされるどんでんがえしがあるのだが、それも蛇足にしか読めなかった。
■「鉄コン筋クリート」と「20世紀少年」
前書きで、タイトルの「双子・悪童」とは松本大洋の『鉄コン筋クリート』の中国語訳から取っていると作者は明言している。
*アマゾン「鉄コン筋クリート
」
『鉄コン筋クリート』を読んだことがないので比較できないが、後半はむしろ『20世紀少年』の匂いを感じずにはいられなかった。
主人公の少年時代の回想に現れる顔も名前も出てこない人間がいる。友人を後ろから突き飛ばし、ガキ大将に一泡吹かせたあの男。いつも自分たちのグループの後ろにくっついていたのに、誰一人として覚えていないあの男は一体誰なのか。彼こそが事件の真犯人じゃないかとの疑いを主人公は強めていく。
証拠を積み重ねて迎えたラスト。主人公の前に突如として現れる真犯人の正体がまさに、誰だよお前!!カ●●タ君か?!と驚くほど影が薄い。
読み返してみると確かに話には出てきているので、ミステリとしてアンフェアとまでは言えない。だが、最後のタネ明かしまでどうも盛り上がりに欠ける内容だった。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。