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ツッコミのテンポで読ませる妖怪ライトノベル『耳食者』は日本のあのマンガをモチーフにしていた―北京文芸日記

2011年06月07日

『耳食者』

今回は中国本土作家によるライトノベル『耳食者』(著:王雨辰、挿絵:KAN)
をご紹介します。「耳食」とは
、「人の言うことを真に受ける、人の話を鵜呑みにする」(小学館、中日辞典から)という意味です。

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*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。


■あらすじ

引きこもりの二流小説家が外で散歩している道すがら、物語を聞くことが食事の14歳前後の不思議な少女と出会った。彼女のために奇妙な物語を1つずつ語り始める。

貧弱な二流小説家と人生の負け犬の警察官がなんで怪人が蔓延る得体の知れない不死の家族の財産相続劇に巻き込まれてしまうのか?

ネクロフィリアっぽくて回復力がゴキブリ級の間抜けな殺し屋と、口やかましい美少女の生首との間にあるのはどのような怪奇で感動的な愛なのだろうか?

貧乏で不器用で不運で可哀想な神様はどうやって怪奇趣味を持つ人間たちを頼って、間違った道に迷い込もうとしている“息子”を救済するのだろうか?

特殊な職業に就き、人ごみの中に潜む妖怪と呼ばれるものたちのストーリーを本書は描いている。

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作者の王雨辰はホラー畑出身の若手小説家だ。本書が彼の初ライトノベル作品となる。だからだろうか、この小説は意図的にか、ライトノベルの定石を外しているように読める。

主人公の二流小説家が耳食者の少女・蘇弥里と出会い、家に連れてくる物語の冒頭のシーン。せっかくの二人の出会いも、少女が食えるものならドッグフードまで口に入れてしまうほどの大食いという強いキャラクター性も、たった7ページで済ませられているのだ。

しかも両者の会話はなく文中では書かれず主人公の 一方的な独白だけで終わり、少女の台詞は一言もない。 ライトノベルの定石を外したこの展開は、本筋は少女に主人公の奇妙な物語を聞かせることにあり、女の子とじゃれ合うことではないことを示している。そして彼ら二人のやり取りは全3話ある本編への導入部でしかない。


■第1ストーリー「不死民」
この物語の主人公で二流小説家の孟饗とその親友で人生の負け犬警察官の鐘夏はひょんなことから表の顔は大富豪、裏の顔はマフィアという赤氏と出会い、彼ら一 族の不死の秘密を知ってしまう。そして人探しを頼まれるのだが、二人はいつの間にか赤一族の血みどろの家督争いに巻き込まれてしまい……。
常識人の孟饗と軽率な鐘夏の掛け合いは「吐槽和反吐槽」(ツッコミとツッコミ返し)と帯文にあるようにテンポの良い応酬を見せている。 また中盤に登場する赤久蔵という少年が良い味を出している。

まず一人称が「小生」ってところがたまらない。

コレを中日辞典に従って「ボク」と訳すか、そのまんま「小生」と訳すかでこの少年のイタさがだいぶ変わってくるが、帯文にわざわざ「憂鬱系中二少年」と紹介されているので後者が正しいのだろう。

この、バッチリ中二病にかかっている赤久蔵の口癖は「十分抱歉」(本当に申し訳ありません)だ。「本当に申し訳ありません。小生は……」と言いながら慇懃無礼な態度で殴ってきたり殺しにかかったりしてくる。

中二病患者赤久蔵と大人気ない鐘夏が繰り広げる命のやり取りは映画のような洗練さがありながらも、それを真横で見ている孟饗が入れる渾身のツッコミが、物語をシリアスにも寄らせずギャグにも偏らせず絶妙なバランスを形成している。
 

■第2ストーリー「奇肱国」
孟饗のもとに先日の一件以来交流が出来た赤久蔵が美少女の生首というとんでもないプレゼントを持ってきた。しかも何故かまだ生きていて、口を開けばわがままばかり言う。

その美少女は有名な殺し屋一家の次期頭領丹左膳の彼女であり、彼の兄丹佐木に首を切り落とされていたことが判明した。

彼ら一家も赤一族と同様に人ならざる者たちで、片手さえあれば生きていけるという暗殺者の家系だった。孟饗たち3人はまたしても人外一家のお家騒動に巻き込まれてしまう。
首だけの美少女と聞くと韓国発の某生首ギャルゲーを思い出すが、ここではむしろ聊斎志異のような怪異色が濃い。彼女が首だけの状態のまま生き続けられている謎なんか道教思想が垣間見える。

しかし赤久蔵といい丹左膳といい、中国の裏社会に古くから存在する一族の末裔がなんで日本の時代劇めいた名前なんだろうか。
 

■第3ストーリー「窮神」

貧乏神に取り憑かれてしまった孟饗。このままではめでたい春節早々にインフレが原因で原稿料が引き下げになるという経済法則を無視した不思議現象が起きるだけではなく、1年間金に困窮することになる。

貧乏神に退散してもらうためには彼の望みを聞くしかない。

貧乏神の“息子”を引きこもりから更正させるべく、孟饗と鐘夏そして赤久蔵は協力して一芝居を打つことにする。だがその“息子”は頭のネジが外れたとんでもない狂人で……。
貧乏神を追っ払うだけという小説中一番ほのぼのとした構成でありながら、マフィアよりも殺し屋よりも危険なナチュラルボーンキラーが登場する。だから一番ギャグテイストの強い作品になっており、孟饗のツッコミも留まるところを知らない。後半の地の文のほとんどが彼のツッコミだ。

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■堂々としたネタばらし


本書に登場するキャラクター同士の掛け合いを見ていて、何かに似ているとずっと思っていたのだがその答えは作者自身が後書きで出してくれた。
もう少しだけ告白するとボクは《銀魂》という作品が好きで、キャラ設定をする際もこの作品に偏ってしまう癖が確かにある。だがボクはやはり《銀魂》と区別したいと思っているし、中国の伝統的な特色
を持つ作品を書くことが出来ると思っている。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. ななしぃ
    • 2015年09月11日 12:15
    • 頑張ってください

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