中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年06月07日
■「また日本に戻ってこられるかわからない」涙を流した温家宝
温家宝、大使館で涙流す(環球時報、2011年5月23日)
日本を訪問した温家宝が大使館で涙を流したシーンが、環球時報の動画ニュースとして報じられてしまいました。環球時報ではすでに削除済みのようです。「また日本に帰ってこられるかどうか分からない」という発言に感極まったのか、温家宝が大使官員や在日中国人を前に涙を流し、手で拭った写真が公表されています。
習近平がメキシコで「腹が一杯になってやることが無い外国人が、我々をとにかくあげつらう」と、素直な気持ちを語ったことがありました。現地華僑を前にしてつい素直になってしまったのでしょうが、さすがに国内ではNGとなり報道はほとんどされませんでした。
中国官制メディアが報じなかった発言内容も香港紙や反体制サイトなどから知ることができる時代となりました。しかし、新華社や人民日報が報道しなかったという事実が持つ意味は今でも重要です。党中央の意図を推し量る指針になると思うからです。少なくとも、党中央がその発言を国内には出せないと判断したことがわかります。
■涙報道は温家宝をおとしめるため?
では、温家宝が泣いたことをわざわざ報じた意味はなんでしょうか?温家宝は中国国内の被災地に行っては遺族を抱きしめて、あるいは涙を見せるというパフォーマンスを続けていますが、今回はそれとは全く意味が違います。報道は温家宝をおとしめようという意図が働いているのではないでしょうか。
中国の報道は「報喜不報憂」(喜びは報じ憂いは報じない)と言いますが、常務委員をはじめとする大物が「体調不調で療養している」と報じられることはありません。温家宝が「来年来られるかどう
か分からない」という後ろ向きな理由で涙を見せるのも弱腰と映りますから、普通なら報道されるなどありえないはずです。
それなのに国内で報じられるのは、やはりメディアを敵に回しているからなのでしょう。自説を展開するメディアを持たない温家宝は党内で劣勢なのです。
■古参幹部の温家宝支持
杜導正「温総理は政治改革を提唱し孤立した」(明報、2011年6月4日)
非主流派、政治改革シンパの元中国共産党官僚が執筆者に名を連ねる雑誌『炎黄春秋』。同紙の杜導正・編集長も、温家宝が孤立している事を認めています。『炎黄春秋』紙自身も何度も整理対象になりながらも、引退した古参幹部の後押しで廃刊を免れている雑誌。共産党体制内での穏健な改革派が集まっています。
杜編集長は政治改革派が少数派であると認めたものの、自分を含めた古参幹部が支持に回っていると明かしました。「(今の中国は)共産党があれこれ指図している」「(お上がすべてを決める)この主従関係は数千年続く中国の伝統だ。ゆえに変化には時間がかかる」と困難さを認めながらも、改革の方法は民主と法による政治であると述べ、温家宝への支持を表明しています。
加えて、「我々古参幹部は長年倒したり倒されたりだったが、引退して冷静になって考えてみると、異なった意見が産まれるのは健康的だ」と発言しています。これは政治改革派に近い古参幹部の共通認識なのだと思います。ただ、いくら『炎黄春秋』に近い人々の支持があったとしても、党中央を揺るがすような力ではなさそうです。彼らの後押しで、温家宝がどこまで巻き返せるか、ですが。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。