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■「給料払って」との要求に逆ギレ、刃物で切りつけた経営者
古巷鎮は「トイレ便器生産の里」として知られ、磁器工場が集まる地域。暴動の発端は磁器工場の給与未払い問題だった。1日、華意陶磁厰で働く熊漢江は両親らとともに経営者を訪ね、未払い給与の支払いを求めた。事前の約束では1日に支払われるとのことだったが、そこで待っていたのはとんでもない事態だった。経営者の蘇は激高し、逆に手下に命じて暴力を振るった。刃物で切りつけられた熊は入院するほどの重傷を負った。
これに激怒したのが同郷の出稼ぎ労働者たち。端午節(6日)の夜、200人以上が鎮政府入り口に集まり、暴行犯を連れてこいと騒いだ。この間、車3台が破壊され、1台が燃やされる騒ぎとなった。現地トップと警察の説得、さらに警官の「介入」により、夜10時半には暴動は鎮火したという。なお自動車を壊した9人が警察に連行された。
暴動を受け県政府はすばやい対応を見せた。潮安県政府ウェブサイトは7日、「潮安県による給与未払いが原因の集合事件に関する迅速な処理」との文書を公開。熊に危害を加えた経営者・蘇らは5日に逮捕されていたと表明した。
■インフレ、経済成長、社会不安
「中国は8%成長を維持しなければ社会不安に陥る」とはよく言われていること。8%という数値は労働人口の増加を吸収できるだけの雇用を生み出せる成長という意味で出された数字だ。今年、中国経済は減速すると見られているが、それでも8%はキープできるもようだ。しかし、社会不安は確実に迫っている。
先日の上海港コンテナ車運転手ストライキは大きく報じられたが、それ以外にも各所で大小さまざまなストライキが発生しているようだ。中国メディアはストライキ(罢工)について報道することは御法度。最近話題のマイクロブログでも「罢工」は検索禁止ワードに指定されているなど、情報統制は厳しいが、ネット掲示板などを通じて情報は広まっている。
今回の事件に関しても、「たんに経営者が乱暴でケチだったから」事件が起きたと考えるのはたやすいが、現実にはインフレに伴う利益の低下、労働コストの上昇などの問題が背景にある。暴力を振るった経営者が悪いことは間違いないが、政府はマクロ経済的指標に裏打ちされた社会不安の増加として認識しているだろう。
今回の事件では、「四川省の出稼ぎ労働者が現地人ならば誰彼構わずに暴力を振るった」との情報も一部でささやかれている。チベット、ウイグル、モンゴルなど少数民族問題ばかりがクローズアップされるが、問題が拡大すれば、民族対立のみならず、地域間対立や階級対立が浮上してもおかしくない状況と言えよう。