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チベット仏教を食い物にするニセ僧侶、中国各地に出没―チベットNOW

2011年06月08日

ウーセル・ブログ「承徳で出会った『チベット芸人』」

チベット人作家・ウーセルさんは、6月3日、ブログにチベット仏教をネタにして商売する漢人についての記事を掲載した。ニセ僧侶まで出現しているという。

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*当記事はブログ「チベットNOW@ルンタ」の許可を得て転載したものです。

原文:在承德遇见“西藏师傅”

文:ウーセル
翻訳:@uralungtaさん

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*承徳はいわゆる「小ポタラ宮」。(清朝の)乾隆帝時代につくられ、現在は商業化された観光地となり、政治的プロパガンダが至る所にみられる。

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*この2人の着ている上着はチベットの民族衣装に似せて作られているうえに更にいくぶんか芝居がかっている。まさに須弥福寿之廟(パンチェン御所)で子どもだましな「チベット芸人」行為をしているところ。

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*これは仏間に控えて観光客相手に占いをしていた「チベット芸人」。四川訛りだった。その訛りを聞いて、ツイッター上で聞いた話を思い起こした。四川の楽山から中国全土の少なくない寺院にマネージャーが送り込まれ、とりわけ多くの観光地に配置され、いくつかの寺院はまるごと貸切り、あるいは寺院と共同経営する契約を結び、それから、観光客向けのお香セットや占い、お守りなどの商品を開発するのだと。私が知るだけでも、同じような人たちはチベットの寺院にも派遣されていて、例えばラサやギェルタン(シャングリラ)には全部いて、民族宗教局などの公的機関が正式に許可を出している。もちろん、そういう人が来るのは、四川楽山からばかりではない。(楽山:世界遺産にも登録されている有名な観光地かつ仏教聖地で「楽山大仏」が有名。


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*売店では彼らが自分たちで作った「マニ旗」を売っていた。ぱっと見はタルチョに似せて作られていたが、値段はぼったくりだった。

【本文】
私はずっと承徳に行ってみたいと思っていた。そこが清朝の皇帝の避暑地だったからではなく、そこに清朝皇帝がチベット仏教をまつり、ダライ・ラマとパンチェン・ラマを迎えるために建設した宮殿、いわゆる「小ポタラ宮」「パンチェン御所」があるからだ。

最近、友人が遠方から来たのを機に、北京から数百キロの承徳を車で訪ねた。かつて、そこはモンゴル人とマンジュ(満州人)が野営して休息し鋭気を養う場所だったが、現在は観光名所の各種広告を除いては、少数民族の活躍した面影は跡形もなくなっている。途中で、迷彩服の男性がつきまとい軍用望遠鏡だ、買わないか、と声を掛けてきた。チベット学と漢学を専門に研究するアメリカの友人が騙されるわけもなく、これが旅行中遭遇した最初のペテン師だった。

承徳を紹介するウェブサイトを出発前に検索していれば、ある程度の心構えはできるだろう。何のことかというと、私たちがパンチェン御所に入ってすぐ、とある仏殿のような部屋で耳に入ってきた、観光客に話しかける何人かの案内の声のことだ。中で「(僧侶を真似た)チベット芸人」が説法していたのだ。好奇心から近づくと、両手を合わせて群がる男女の観光客に向かって、チベット服(僧衣)っぽい上着を身につけた男性が見えた。その男性は、まず中国語で、「菩薩のご加護で開運出世、金運上昇間違いなし……」などの類の話をした後、1人1人にろうそくを手渡しながら「タシデレ」と念じていたのだが、そのチベット語の発音ときたらまったくヘタクソなものだった。

遭遇したのが何かの「チベット芸人」ではないとしても、あのろうそくが無料で贈られているわけではないことは明白だった。私は声を潜めて、彼らは金をだまし取っている、と友人に伝えた。友人は「じゃあ堂々と聞いてみましょうよ」とのってきた。それで私たちは男性の前に進み出て、友人はチベット語で礼儀正しく尋ねた。「一つ教えを授けていただけますでしょうか」。「チベット芸人」の男性は見るからにうろたえ、彼がチベット語をまったく理解できていないのは明らかだった。「チベット語は分かりますか?」私は訪ねた。「もちろん、ただちょっと今忙しいんで」彼は慌てふためいて言いつくろった。

こうした光景には見覚えがあった。私はかつて、ラサで数年前にあった出来事を(コラムに)書いて いる。数年前、ラサのギュメ・タツァンを漢人地域の旅行会社が貸し切り契約して、寺院内に商店を開設して仏具を(土産物として)高値で売りつけただけでなく、旅行社のスタッフがチベットの民族衣装を着て、甚だしくは僧衣を身につけてチベット人や高僧に扮し、旅行客に「開眼供養」や「加持」をしたり吉凶禍福のインチキ占いをして大金をかすめ取った。旅行社はラサ市宗教局と旅行局の公式な書面認可を持っていたから、ギュメ・タツァンは同意するよりほかなく、僧侶たちは怒りに震えつつもそれを口に出せる状況ではなかった。

しかし、知らずに騙された旅行客は後になって(騙されたことに気付いた結果)、チベットのチベット人がやっているインチキだと思い込み、立腹して(チベット人を)名指しして非難するのだ。これはインターネット上で今も読むことができる。また、まさにインターネット上で広まった話もある。ラサのチャクポリにあるタクラ・ルプクで、いわゆる「チベット人巡礼ボランティア行者」が小さなバター灯明を一つ299元(約3700円)で売っているという話だ。(話を知った)私も、そのためにわざわざカメラマンと一緒に行き、何人もの、寺院復興を支援するためと自称する「ボランティア行者」に遭遇した。チベット風の衣装を身につけていたが、(行者どころか)チベット人でさえまったくなく、やはり某旅行会社がタクラ・ルプクに派遣して金を稼がせていた漢人だった。私たちは現場で彼らの写真を撮ってやったものだ。

実のところ、この種のペテンはいまや中国全土に蔓延している。名だたる人気の名所旧跡や名勝仏閣に一歩足を踏み入れれば、まるで商店街に入ったかのようで、ガイドは物売りになりかわり、僧侶は商売人か偽物で、仏教文化は購買欲をそそるためのおとりに使われ、仏事祭具は商品になっている。それに加えて、観光客の側の大多数も、もともと本物の信仰心など持ち合わせていないから、諸仏菩薩のことも世俗社会の権力者のような存在程度にとらえ、金銭と物品を渡せば袖の下で動くものだと思って、金で見返りを期待する。寺院にどっと群がるペテン師がさらにそのような誘導をするので、諸仏菩薩はまるで、賄賂を渡さなければ加護を与えないかのように思えてくる。その場でひととき聞いているだけで、賄賂が横行する昨今の低俗な社会の完璧なコピーであり、ただ仏の見かけをまとっただけにすぎないことが分かる。

承徳の、チベット仏教に関連した二つの皇帝の御所はそのチベット仏教的な風情が観光資源として開発され尽くし、「チベット芸人」が金をだまし取る場所になっていた。騙された旅行客の恨みつらみが、「チベット芸人」の体現したチベット仏教に投げつけられるだろうことは容易に想像できる。そこでチベット仏教がスケープゴートにされるなら、さらに悲惨なことだ。本来は人のこころを清めるべき寺院にニセ仏教がはびこるのである。

2011年5月25日
初出:RFAチベット語
*当記事はブログ「チベットNOW@ルン」の許可を得て転載したものです。

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