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【写真】老人と孫娘の「幸福」=たった一枚の写真が人々の胸を打った―政治学で読む中国

2011年06月12日

「幸福」という名の写真

先日、法制晩報がネットで話題となったある写真についての記事を掲載していました。アマチュアカメラマンがたまたま街中で撮ったものです。「幸福」とタイトルを付けられたこの写真はミニブログに掲載されるや、9万回もリツイートされ、1万件ものコメントを集めました。

20110611_happiness
*話題となった写真「幸福」。法制晩報の報道。

*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。


中国ではよくあることですが、ネットで話題のネタを新聞が取材して検証し記事にします。この写真についても、『新華毎日電訊』や『工人日報』などが相次いで報道しています。特に『工人日報』では一面に掲載するほどの扱いでした。


■孫を抱える清掃員の男性

写真の老人はどんな職業なのか、ひょっとしてわからない方もいるかもしれません。着ているオレンジの服を見れば、環衛工と呼ばれる、いわゆる街の清掃員であることがわかります。右側にある掃除道具から推察できた人もいるのではないでしょうか。

田舎から出稼ぎにきているそうで、子ども夫婦も別のところで働いているので、この老人が孫娘を育てているそうです。写真を撮られた日がたまたま土曜日で幼稚園が早く終わったので、祖父のところに孫が遊びに来ていたというわけです。

この写真が話題になった理由ですが、身なりを見てもわかるとおり、彼は貧しい生活を送っていることは間違いありません。しかし、それでも家族と一緒にいるだけで、幸せそうにしている様子。豊かになった中国が失いつつあるものを思い出させてくれたからではないでしょうか。


■ネットに書き込まれた感動の声


記事にはミニブログに書き込まれたコメントがいくつか転載されておりましたので、下に訳しておきます。

とても感動的だ。清掃員は社会的地位は高くないが、我々のために都市に貢献してくれている。

たとえ、あなたが大きな家に住み、豪華な車で子どもを学校に送っても、愛を与えることができなかったら、あなたの子どもは、クラスにいる清掃員の子どもより活発でなく、自信を持つこともできないだろう。

昨日、清掃員が腰を曲げて、地面のゴミを1つ1つ拾っている様子を見た。それ以来私は二度とゴミを捨てないと決心した。


■経済発展とともに失いつつある家族の絆

やはり、清掃員という社会的身分も低く、貧しい生活を送っている者が、家族と一緒に幸せそうにしていることが本当の幸せとは何かと、考えさせたのではないでしょうか。実際、経済発展に伴い、中国では拝金主義が蔓延しており、残業残業で家族との時間がろくにとれない者が増えつつあります。

農村ではろくな稼ぎがないため、出稼ぎにでることも一般化しており、先に書いたように、この老人の息子夫婦も別のところで生活しており、家族が離ればなれになってしまっています。以前であれば、今より貧しかったかもしれませんが、残業もなく親は定時になれば帰ることができましたし、出稼ぎに行く者も今ほどは多くありませんでした。

実際、中国では家族の絆を日本以上に重んじます。内心ではそうありたいと思う気持ちが普段から強いからこそ、こうした写真を見て、望ましい家族の関係とは何か、本当の幸せとは何かを再確認することとなったのではないでしょうか。


■「幸福」では済まないオチ……


ただ、この話には別のオチがあり、写真を見るとわかりますが、この老人は勤務時間中に孫娘と勝手に休憩していました。そのため、この写真が評判になったことを知ると、老人は「さぼっていた」ことが会社にばれて問題になるのではないかと恐れて、孫娘を連れ田舎に逃げるように帰ってしまったそうです。

なお、記者が会社を取材したところ、、勤務時間内に孫娘と一緒にいたことは間違いなく望ましいことではないが、会社としては別に何か処罰する意志はないそうです(もっとも処罰すれば非難の的となるのは間違いないでしょうから、当然の応対でしょう)。

写真の老人にとっては、「幸福」な結末とはならなかったわけですが、それにしてもたった一枚の写真がここまでの影響力を及ぼすとは誰も予想だにしなかったのではないでしょうか。

*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。

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