中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年06月18日
中国に旅行した時に気がついたのだが、街のいたるところにマッサージ店があるのに本屋がほとんどない。中国人の平均読書時間は1日15分未満。読書量は日本の数十分の一に過ぎない。中国こそ典型的な「低IQ社会」であり、将来、先進国に発展する可能性はない。
■「大前氏発言」はなかった?
冒頭の引用文は大前氏の著書『「知の衰退」からいかに脱出するか?』の一節という触れ込み。
2009年1月に日本語版が発行され、2010年4月に『低IQ社会』というタイトルで中国語訳書が出版された。出版から1年以上が過ぎているが、中国の教育問題を語る記事などに引用されるケースが少なくない。ウォールストリートジャーナル中国語版に掲載されたコラムは特に話題となった。
(同コラムはレコードチャイナが紹介している。「中国は「低IQ社会」に向かっているのか?―米紙」)
ところがRFAによると、『低IQ社会』のページをいくらめくってみても問題の文章が出てこないという。おそらくネット民がタイトルだけ借りて、自分の主張を書いたのだろうというのがRFAの見立てだ。私がネットで調べたところ、最古のものとして、2010年4月23日のブログ記事が確認できた。その記事もマイクロブログからの転載という体をとっている。なるほど、長さ的にもつぶやくのにちょうどいい量だけに、起源はマイクロブログにあっても不思議ではない。
■知識人も本を読まない?
この「大前氏発言」のブレイクには伏線がある。というのも「中国人って本読まないよね?民度低くない?」的に嘆くというのはよくあるパターンのお話なのだ。
中国科学院の楊福家院士は上海万博で、「長蛇の列に並ぶのが辛いっつーのは民度が低いから。文句を言わずに本でも読んで待っとけ!ヨーロッパ人はみんなそうしている」と発言しました。猛暑の上海で太陽にさらされながら読書っていうのはちょっと無理な気がするのだが。ちなみにこの楊院士講演では「国民にもっと本を読ませたいのです……」という温家宝発言もひろわれている。
(記事「中国人の「民度」が万博最大の展示品=日本やヨーロッパを目指せ―中国」参照)
実際の中国はというと、大きな本屋の数は少ないが、マガジンスタンドや海賊版書籍を売る小店舗は相当数が存在する。また携帯電話やパソコンを使った電子書籍サービスや海賊版書籍データの流通も考えれば、読書量は相当増えているはずだ。
もっとも「本を読まない国民性」がもしあるとするならば、今回の大前氏発言こそがその証左と言えるかもしれない。なにしろ1年以上もの間、たびたび引用されながらも誰も原典にあたって確認していないのだから。大手マスコミの記者も本を読まずにネットしか見ていないことが立証されたと言えるかもしれない。いや、こんな記事を書きながらも大前氏の著作にあたっていない私が文句を言える筋合いはないのだが……。