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2011年06月23日
午後10時、蘭西県東方紅穀物庫の崔振国副主任はいつもどおり見回りを始めた。1986年に軍からこの職場に移って以来、同氏はずっと警備を続けている。「以前、倉庫に食料があった時は近くの村民が盗みに来たものです。今では倉庫は空っぽ。ネズミ一匹いやしません。針が落ちた音でも聞こえるぐらいですよ。」
倉庫の中に入れてもらうと、なるほど中は空っぽだった。隅に置いてある機械はもうさび始めていた。臨時の備蓄時に使うむしろはみなカビが生えている。最後に使ったのは2005年のことだという。
■国家の食糧備蓄を担う穀物庫
トウモロコシの産地として知られる黒竜江省綏化市蘭西県。同県には計14の政府系穀物庫があるが、うち12カ所が空っぽ。農業発展銀行から借りている債務は計3億6000万元(約45億円)に達している。
もともと国有機関だった穀物庫は、非常時に備えて穀物を備蓄しておく役割を持っている。現在では各穀物庫ごとに収支を計上することになっているが、備蓄食糧1トンあたり70元(約875円)の金を国から与えられるなど、公的な性格が強い。
■倉庫の拡張と運転資金難
今回の破綻のきっかけとなったのは2006年のこと。穀物庫の容量を増やせば増やすだけ、国の備蓄食糧割当が増え収入も増えるためだ。2006年から2010年にかけ、各穀物庫は設備増強を続けたが、そのために資金を使い果たし、運転資金に難を抱えることとなった。
折り悪く、穀物価格の高騰とも時期が一致し、民間企業との穀物買い付け競争にも遅れをとった。資金繰りが悪化してからは、前年の負債を返却した後に新たに刈り入れて穀物を買い付ける自転車操業が続いたが、返却の遅れから収穫期が過ぎ、民間企業があらかた買い付けを終わった後にようやく資金の準備ができるというありさまに。穀物庫はついに従業員に資金を融資するよう強制する事態にまでいたっていた。
■発覚した「空っぽ」の倉庫
しかし、それでも穀物の買い付けはできず、倉庫は空っぽに。穀物がなければ、国から備蓄代金をもらうこともできなければ、穀物を担保に金を借りることもできない。こうして蘭西県の穀物庫は虚偽の報告を繰り返し、空っぽの倉庫の中には穀物が満ち満ちているかのように装った。
今年1月、ついにこのとんでもない詐欺が発覚した。会議だと伝えられて集まった各穀物庫の責任者は逮捕され、一部は逃亡している。莫大な債務を返却するためには倉庫設備を民間企業に売却するしかないと県政府関係者は話している。