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中国有機食品事情を考えてみた=制度作って魂入れず―北京で考えたこと

2011年06月26日

どれが本物の「有機」か?中国特色的有機農業あれこれ

ここのところ、とーんと三農関係のことをブログで書いていなかったことに気づきました。今回は久々に農業ネタです。これまでも何度か取り上げましたが、食の安全を揺るがす数々の食品事故のニュースは中国の消費者にも大反響です。皆が漠然とした不安を感じる中、今日はここ最近耳にした「有機農業」に関する話題をつれづれなるままに記していきたいと思います。

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*つい最近は爆発するスイカに「膨張剤」を加えるやり方が大きく取りざたされました。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


■中国の有機食品認定

ちなみに、中国においては食品の品質認定に、無公害農産品、緑色食品(A級とAA級とに分類される。AA級となるとほぼ有機食品と変わらない。ただし有機食品認定を受けるには3年間の継続栽培という縛りがある)、有機食品の大きく3つがあります。最も要求の高いカテゴリーが有機食品認定です。化学農薬と化学肥料の投入をゼロにし、かつそれを3年間続ける必要があります。つまり、

無公害農産品<緑色食品A級<緑色食品AA級<有機食品
の順で要求が高くなる(難しくなる)わけですね。また、無公害農産品以外では認定料も必要です。
(食品の安全基準に関しては以前の記事「【中国食品】中国の安全基準と国際基準の違い=改訂が進まない理由―北京で考えたこと」でも触れています。)


■有機農業をやるのは大変です

しかし、本当に有機農業を実践するのは簡単ではないのも事実。

6月23日付南方週末では貴州省のある山村での「有機農業実験」がいかに困難かが報じられています。同村では6年前から香港のNGOの支援を受け、侗族に伝わる伝統農法を復活させました。この有機農業を始めた村では、有機農産品買付けツアーの誘致に成功するなど一時は成果も見せ始めていました。しかし、その動きは困難にぶち当たり、また周辺農村に広がっていく様子もありません。

「若者は出稼ぎに行き、老人と女子どもだけで人や家畜の糞を集めるのは大変だ。それに機械が多く入って来て牛の数は少ないから有機肥料が集まらないよ。収量も低いしね」「良いことは分かるんだけど、若いのがいないからね、化学肥料使うしかないでしょ」と地元の人たち。そして、一時期は盛り上がる買付けツアーも長続きはしません。ツアーの車代をNGOが支援しているうちは良いですが、それがなくなるとやはり割に合わないとツアーの熱は冷めて行きました。

貴州省農業科学院現代農業発展研究所・所長は「国は更に農家へ補助をしないと農業の経済収益と生態環境のバランスは保てない。まだ生計を立てるのにあくせくしている農民に生態環境保護まで求めるのは不公平だ。」と主張しています。この所長さんの「補助金出せば」というところには必ずしも同意しませんが、後半の一言はごもっとも。


■ニセ有機食品がいっぱい?!

それだけ手間のかかる有機農業ですが、都市ではこの言葉が氾濫しているのもまた事実です。少し前には中国ネット販売大手「京東商城」の有機米が、本当は有機食品ではなかったとのニュースが話題となりました。

京東の有機米には有機認定の番号がなかったことから、ネットで話題になっていたところ、京東のCEOが新浪微博で「厳格に言えば、このコメは「有机转换大米」(有機に転換中の米)。国の基準は3年間連続で有機栽培で育てて初めて有機米と呼んで良いとのことだった。申し訳ございません」と謝罪することとなった。

ただ、業界ではこの3年間中の「転換」米が有機米として売られることは公然の事実と言います(参照:南方週末)。

有機食品の認定料は高くネックになっているという話も現場では聞きましたが、もちろん有機認定受けてなくても、その手続きを経ていないだけで実際には良いものもあるでしょう。とはいえ、安易に有機を名乗るのは良くないことです。

自分も地方農村を歩いていると、「いやー、うちの農産品は有機でねぇ、ワハハ」と自信たっぷりの老板(社長さん)に倉庫を見せてもらうとメチャ農薬山積みということもしばしば……。使っている現場を見るわけではないですが、有機という言葉の理解が違うのではないかと感じることはよくあります。

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*6月11日に北京で行われた有機農業実践者が集まったマーケット、かなりの人だかりでした。


安全安心な食品に強い需要

上述の南方週末記事でも触れられていましたが、「本当に安全な食品はどこにあるんだ?」と心配する市民たちが各地で有機農産品を買い付けにでかける妈妈团(母親団)、菜团(野菜グループ)などというグループを結成しているそうです。また、北京で先日行われた「有机农夫市集」(有機食品市場)にも朝から相当数が訪れ、安全安心の食品を買い求めていました。こういった新しいマーケットの試みも今後続いて行くでしょう。
南方都市報が上海の有機食品市場については報じている。)

「有機農業は単なる農業のあり方ではない。人の生き方の一つの姿勢・あり方そのものだ。」
(参照:南方報網

これは山東省で有機農業を実践している、ある日本人の言葉。強く印象に残っています。


■「有機」という言葉を根付かせる意味


に有機という言葉が踊っているだけとの感もある中国。農業生産者の立場に立っても、13億人を食べさせるという中国の現状からも、有機でやるというのは難しいでしょうし、私もそこまで極端な立場を主張しようとは思いません。

ただ「有機って何だ?何で農薬使うんだ?」といった理解が自然と農業、ひいては中国で言えば三農問題への都市部住民の理解にもつながると思います。中国でも拡がる食の安全ブームから、分断された感のある都市と農村がつながるきっかけができれば不幸中の幸いと言えるでしょう。

なにより農薬の過剰使用など食品安全問題は、安穏と都市にいながら「化学肥料使うな!農薬使うな!」と農民に要求するだけでは、解決はおぼつかないでしょうから。

*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。


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