中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月03日
中国の労働コストは上昇しているのだろうか?
「世界の工場」の地位はかげりを見せているのだろうか?
あるいは、ナイキの年報をひもとけば、その答えを得られるかもしれない。
■渡り鳥・ナイキ、中国からベトナムに移動
さて、なんでナイキを見るとわかるのかということだが、実はナイキ製シューズといっても、実際に作っているのは請負先の工場。運動靴は典型的な労働集約型産業であり、労働コストが安い生産拠点を確保することが重要だという。ゆえにナイキは安い生産拠点を探して、まるで渡り鳥のように次々と拠点を移してきた。
最初期のナイキ工場は日本にあった。その後、韓国と台湾に移動。続いて、フィリピン、タイ、マレーシア、香港に移った。この後を中国にするかインドにするかが検討され、最終的に中国が選ばれた。中国での生産が始まったのは1981年のこと。その後、ナイキ・シューズ最大の生産国となった中国だが、2010年にその座をベトナムに奪われた。
*財新網によるナイキ製運動靴の国別生産比率。
2001年時点では生産数の40%が中国製だった。ベトナムの比率はわずか13%に過ぎない。2005年になると、中国36%、ベトナムは26%で国別2位と接近する。2009年は36%で両国は並び、2010年になると、ベトナム37%、中国34%とついに逆転した。
■いいニュースではないが、悪いニュースでもない
ナイキの生産拠点移転はきわめてシンボリックな意味合いを持つ。靴製造や衣料品製造などの労働集約型産業は珠江デルタ、長江デルタを中心に分布しているが、この「世界の工場・中国」の中心地は今、大きな変革の時期を迎えつつある。
労働集約型産業の移転と聞くと、失業率悪化や社会不安につながるのではとすぐにマイナス発想につながってしまうが、むしろ肯定的に受け止めようとの論説記事もあった。3日付網易は「ナイキ・シューズがベトナムで製造へ=このことを喜ぶべきか、憂うべきか?」とのコラムを掲載し、低利潤の労働集約型産業からの脱却は先進国になるために避けては通れない道であり、グッドニュースではないせよ、悪いニュースでもないと結論づけている。
中国では昨年来、各地の最低賃金が引き上げられたほか、今後も年10%以上の給与上昇が予想されている。労働集約型産業への打撃は政府も織り込み済みだろう。今後は膨大な数の労働者に新たな仕事を手当てする必要に迫られることになるだろう。サービス業がその受け皿として期待されているのだろうが、中国政府がうまく手綱をさばくことができるだろうか。