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「沖縄人は中国を脅威と考えていない」米外交公電報道に見る米中のしたたかさ―政治学で読む中国

2011年07月09日

米領事館による沖縄県民の対中観分析

環球網』に掲載された「美外交电文称冲绳人不认为中国是威胁 更讨厌美国人」(米外交公電:沖縄人は中国を脅威と考えていない=むしろ米国人を嫌う)という記事が大変興味深かったのでこれについて少し。


Kadena Air Base (DNA/RODN) / Hyougushi

*嘉手納基地。


*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。


■記事の概略

まず最初に記事の概略について紹介させていただきます。

沖縄の人たちは東京やワシントンとは異なり、アメリカ軍の沖縄駐留に反対し続けるのは、騒音問題や一部の米国兵による振る舞いなどが大きな原因だ。

ただ、「ウィキリークス」が公開した那覇の米国領事館の公電によると、沖縄の人々は、中国に軍事的脅威を感じておらず、その理由としては、沖縄と中国の歴史関係が大きな影響を与えており、沖縄も中国も日本からひどい目にあっており、互いに親近感を抱いている。

電文は第二次世界大戦期に発生したことに言及しており、特に日米は沖縄を主戦場として戦ったため、双方の軍人及び民間人に大量の死者をだした。沖縄と中国の友好関係は日清戦争以前からあり、その時沖縄は独立国で琉球と名乗っていた。

『環球網』が日本に関して報道するもののジャンルの1つに沖縄ものがあります(以前書いた沖縄独立論などが典型です「中国の琉球独立支持」参照)。そのため最初この標題を見て思ったのは、独立論の変形としての沖縄県民のアメリカ排斥の記事ではということです。


日本向けと中国向けで異なるWSJの記事

ただ1行目にThe Wall Street Journalとあったので、中国でよくある自国に都合の良いところだけを翻訳したいつものパターンの記事かとも思いました。そこでThe Wall Street Journalの記事を探して見たのですが、実は記事そのものが2パターン存在していました。

標題はどちらも、”WikiLeaks: Okinawa’s Pro-China, Anti-U.S. Bent”なのですが、1つはJapan Realtime Reportに掲載されたもので、もう1つがChina Realtime Reportに掲載されていたものでした。基本的にこの2つの同じものですが、中国版は日本版に比べ一部省略されています。

Japan Realtimeの記事は日本語訳があります。この最後の3段落がChina Realtimeには掲載されていない部分となります。


■中国向け記事から削除された内容

省略された部分ですが、最初は当時の沖縄市長候補・東門氏の主張を紹介したもの。日米両政府はオオカミ少年のようで、中国が何か恐ろしいことがしてくる、してくるかと言うが、何も起こっておらず、沖縄に対してひどいことをして来たのは、日本とアメリカだと発言しています。

個人的に最も興味を引かれたのが最後の段落です。沖縄が親中的なのは歴史的要因だけでなく、中国を脅威とすると、沖縄からの米軍撤退が遠のくという意見が紹介されているところです。基本的にリアリストの私としては、この考え方が歴史的要因より納得しやすい面があります。

『環球網』はChina Realtime Reportを元に翻訳をしたものですが、調べてみると『新華網』の「美媒:美外交官评估冲绳人“亲中反美”」(米メディア:米外交官は沖縄人を”親中反米”と評価)はJapan Realtime Reportに掲載されていたのと同じものが翻訳されておりました。


■WSJのしたたかさ、中国政府のしたたかさ

実は、相手により記事を2パターン用意するというThe Wall Street Journalの方法はうまいものだなと考えていたのですが、中国政府も媒体によりどちらを翻訳するかを分けており、これもなかなかやるなと思いました。

私は人は自分の知りたいことしか見ようとしないものだと思っています。つまり自分の嗜好にあう記事を求めるものであり、右とか左だけでなく、センセーショナルなものを好むかとか、理論に重点が置かれたものを好むかなど、人には嗜好があり、それに合致したものを普段から読む傾向がある(それしか読まない)と考えています。

より多くの人に記事を読んでもらうために、いくつかのバージョンを用意したThe Wall Street Journal。愛国主義的傾向が強い『環球網』と基本的に公式見解を発表する場となっている『新華網』で明らかに翻訳記事を変えてきた中国。どちらもしたたかです。

馬鹿の一つ覚えのように、ありもしない「客観報道」などを目指しているどこかの国の報道機関などより、よっぽど手強い相手ではないでしょうか。

*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. 闇の沖縄
    • 2012年11月06日 01:50
    • 4 「最後の三段落」が英語版に削除され、日本語版にあるのは、日欧のジャーナリズム(現代日本にはほぼ皆無に見えますが)で記者及び編集者の心構えが違うのではと思います。欧米では記者の印象や憶測の部分は書き辛く、日本では事象だけの暗示的な表現でも載せてしまうところがあるのかも知れません。沖縄の「表現・報道の自由」が人質にされている事実を知った上での、先入観でのコメントです。
      http://www.youtube.com/watch?v=vCLP1U1zdLo

      http://www.youtube.com/playlist?list=PL7F04A6D8074E42CC

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