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過去に向かって大躍進!革命歌ブームを主導する薄熙来―中国コラム

2011年07月11日

後ろへ大躍進中の薄熙来

紅歌(革命歌)ブームを主導したりと、注目度ナンバーワン中国政治家といっても過言ではない薄熙来・重慶市委書記。その最近の動きにについてまとめてみました。

まずは「紅歌は文革の再来では」などと叩かれていることについての反論から。

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重慶日報の報道。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

■文革回帰ではないと反論

薄熙来「唱紅が文革への回帰など荒唐無稽」(重慶日報、2011年6月18日)

重慶「紅歌」は続けるにつれて多くの理解と支持を得ている。社会には「左ではないのか」「文革への回帰ではないのか」などの見方があるが、これは状況を理解していない。

紅歌は抗戦から建国、改革開放までの新時期に、人民群衆の間で歌い継がれた優秀な歌であり、生命力がある。文革では多くの優秀な歌の作曲者が打倒された。これらの歌を歌うことは文革への回帰だと言うが、事実無根だ。

実際、これらの歌は救国の歌であり、建国の歌であり、強国の歌だ。中国人民はこの歌を歌って数十年の堅忍不抜な奮闘を経て、半植民地、半封建的な旧中国を、一歩一歩世界第二位の経済国へと作り上げた。

当時、外敵が侵入するなか、『義勇軍行進曲』、『大刀進行曲』で幾千万の民衆を奮い立たせ、民族の窮乏を救ったのだ。『保衛黄河』の叫びが良知ある中国人の心を震えさせ、正義の血をたぎらせ、祖国防衛の勇気を奮い起こさせたのだ。

新中国建国の過程で、革命芸術家たちも『歌唱中國』や『我們走在大路上』『雷鋒之歌』などの素晴らしい歌を生み出し、幾億人を団結させ、鼓舞した。戦歌がなければ、紅歌の鼓舞がなければ、強大な敵には打ち勝てなかっただろう。

重慶人は紅歌を歌うだけではなく、(革命の)古典を読み、(革命の)物語を読み、(革命の)金言を伝えている。マルクス、エンゲルス、レーニン、毛沢東、鄧小平の著作や、岳飛、鄭和、玄奘法師、文天祥の古典、ソクラテス、トルストイ、キュリー夫人、アインシュタインなど偉人の格言も「唱讀講傳」の範疇に含まれる、非常に内容のあるものだ。

重慶は光栄な革命の伝統的都市だ。これまで革命精神の学習を重視し、継続、発揚している。近年、重慶は「唱讀講傳」を真剣に展開し、人民群集には着実に受け入れられ、社会各層から高評価を貰っている。

いくらか「雑音」はあるが、我々は真理を堅持し、「旗幟鮮明に」我々がやらなければならない事業を進め、人民軍集の利益に合致し、科学的発展観を実行し、他人があれこれ言うのを恐れなければ良いのだ。

重慶の発展は党のお陰で、その党が歩んできた苦難の中で生まれた紅歌を歌って何が悪いという趣旨です。

薄熙来は自身が推し進める「紅歌」活動について以前にも「左傾化でも文革回帰でもない」と反論しています。習近平をはじめとする太子党あたりに受けが良い反面、反発も小さくないのでしょう。

今回は紅歌活動に対する反論を「雑音」と表現しており、当然この中には温家宝の「文革の残滓」「嘘つき」発言も含まれることになりますから、薄熙来側の勢力が以前より伸張しているのでしょう。
(関連記事:「政局に不穏な空気=メディアは温家宝発言を“無視”、反論のみ報道―中国コラム」KINBRICKS NOW、5月7日)


■文革回帰ではないと反論 第2回目

上述の発言から10日あまりが過ぎた29日、重慶で開催された「中華紅歌会」(6月28日から7月1日まで開催)に合わせて、文革回帰に対する指摘に再び反論しています。

薄熙来「紅歌が文革への回帰というのは荒唐無稽」(重慶晨報、2011年6月29日)


この中華紅歌会は中央宣伝部長の劉雲山も高く評価し、中央宣伝部が強力にバックアップをしていることが記事からわかります。重慶市内はもちろん、全国各地から招聘した合唱団に紅歌を歌わせる大会で、ご覧のとおり北京五輪でも使用された重慶市五輪スタジアムで開会式をやるなど、相当大きなイベントになっています。


■でもどう見ても文革チックなイベントの数々





「文革への回帰」と指摘されるのを嫌っているのは、「『保衛黄河』や『歌唱祖国』は文革の歌とでも言うのか?」と、重箱の隅をつつくような嫌なロジックからも明らか。薄熙来が文革に肯定的なイメージを持っているかはともかく、人々の思う「文革への回帰」には否定的なイメージしかありませんから、薄熙来としては「そんな事はない」と返すしかないのです。



ただし、現場の雰囲気を見ると、どうみても文革当時にしか見えません。薄熙来や黄奇帆市長ら重慶市のお歴々に混じり、キッシンジャーも来賓として呼ばれているんですねえ。

薄熙来は「紅歌は人民の健康を向上させる」とスピリチュアルっぽい事も言っていますし、「中華民族の求心力」「民心の団結」という表現も使っており、それをやる方法は紅歌しかないのよ、という本音も見えたり見えなかったり。

紅軍(解放軍)や紅歌(革命歌)をネタにした動画やカバー曲は豊富で、日本における天皇陛下や皇軍よりずっとタブー視されていないと見る向きもありますが、革命歌以外に世代や民族を超えて共感できるものが無く、革命歌がないと団結を維持出来ないという意味でしょう。

革命歌を軽く鼻歌なんかで歌うと、「それ○○だね」という反応が、どの世代からも返ってきます。日本人が革命歌なんかを口ずさむおかしさも手伝うのでしょうが、幅広い年齢層が印象を受ける反面、誰も知っているような童謡などはないのだろうかと不思議に思っております。


■調子にのって革命テーマパーク建設を発表

さて、批判は受けつつこれまではイケイケだったはずの重慶紅歌運動も、ここでようやくストップがかかりました。

重慶市が総工費25億元の紅色古典テーマーパーク建設へ(重慶晩報、2011年7月5日)


7月4日、重慶市南川区に紅色テーマパークの建設されることが発表されました。テーマパークの敷地面積は1921ムー(1ムーは約6.67アール)と建党した年にちなみ、園芸ゾーン、テーマゾーン、革命景観ビジネスゾーンの3つのエリアから構成されます。

建国年の1949平方メートルの国旗、1921平方メートルの党旗、810平方メートルの軍旗、1922平方メートルの共青団旗と1949平方メートルの少年先鋒隊旗を製作し、国民の民族的自信を煽りまくるというもの。いずれの大きさも、団体の設立された年や日時に由来しています。

演芸ゾーンではひたすら紅い劇を繰り返し公演し、革命における「偉人」の旧家を原寸で再現、十大元帥を2倍のスケールで、開国時の上将55人を原寸で、他にも中将や少将1000人近い将軍達の彫刻を展示する開国将帥ゾーン、中国では「兩彈一星」と呼ばれる原爆、水爆、人工衛星の開発事業における功労者ゾーンや長征体験ゾーン、革命聖地ゾーンなど盛りだくさん。

革命聖地ゾーンでは、井崗山(南昌蜂起に失敗した工農紅軍が逃げ込んだ山)や延安(国民党軍敗北した共産党軍の逃亡先)、西柏坡(解放前に解放軍本部が置かれた山村)をテーマに、「偉人」たちが潜んでいた穴倉や、遵義会議など有名な会議が行われた建物の原寸コピーなど、既存の革命聖地の寄せ集め感満載。絶賛空振り中の『建国大業』を大きく上回る大コケが、骨子からも漂ってきます。


■調子に乗りすぎたのでバッシングの嵐

紅色古典テーマパーク--どうでもいい事に苦労する?(南方週末、2011年7月8日)

あれだけ紅歌活動やコンクールを後押ししていた中央宣伝部は一銭も出す気はなく、25億元(約312億円)もの巨費をどこから捻出するのかと問われまくった、区宣伝部は「建設費の25億元は重慶紅色經典投投資有限公司が出す。重慶市や南川区の財政からは出さない」、「現時点では枠組み合意の段階であり、用地買収を含め具体的なことは決まっていない」と説明。

南方都市報の取材によると、「重慶紅色經典投投資有限公司」という企業は実在しないとのことです。

ネットの書き込みも激しく盛り上がり、「貧困地域に回したほうが庶民が感謝するぞ」「重慶のネット民よ、(重慶市が最近煽ってる)幸福について語れよw」「誰だよ決めたの」「都市は重慶に学べってか」といった批判が主流です。


■革命テーマパーク建設の夢、速攻で挫折

紅色古典テーマーパークの建設停止決定(新華社、2011年7月7日)

発表からわずか3日後の7日に建設の中止を発表しました。区政府の発表では、南川区及び重慶市ではこのプロジェクトを実行するのは不適当であるとしています。何がどう不適当なのかの説明はもちろんありません。

習近平や中央宣伝部の後押しを得た運動であるにもかかわらず、テーマパークが建設中止を決定した背景には、中国唯一の世論であるネットが予想以上に建設反対に傾いており、一連の建党90周年などの共産党イベントに税金がつぎ込まれていることへの反発を察知したのではないでしょうか。区宣伝部が「公金は使わない」と表明したのも、そうした反発への釈明なのです。

観光地化した聖地に旅行してコスプレを楽しんだり外から眺めるのは良いけれど、身銭を切らされるのは嫌、という分かりやすい感覚を理解していないから、テーマパーク建設にゴーサインを出してしまったのでしょう。

入党希望者が党から要請されればイベントに参加するのは当たり前で、党とは距離がある一般市民との温度差が浮き彫りになりました。真面目に紅い人も、既に中国各地にある革命聖地のレプリカを作ってどうするんだという思いはありそう。

一体誰が得をするのでしょう。建設を発注する市や区ですか。市民には後ろへ大躍進させつつも、しっかり金儲けはするという太子党らしさがうかがえます。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

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