1人っ子政策に挑む広東省のプライドご存知の通り、一人っ子政策は中国を代表する人口抑制政策となっています。しかし、最近この一人っ子政策に公然と疑問を呈す省が出てきました。
南方日報の報道によると、張楓・広東省政府人口計画出産委員会主任は10日に同報の記者の取材に答えた際、「広東省はすでに、『单独可生二胎(夫婦のどちらかが1人っ子ならば、2人まで子供を生むことができる)』政策の試験導入に関する申請を国に正式に提出した」と明かしたのです。
孩子 / 大杨*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。
■一人っ子政策の弊害
1人っ子政策は改革・開放以降、中国の諸政策の根幹を構成する政策の一つになっています。1人っ子政策により中国の人口抑制には一定の成果を挙げたといえますが、最近になってさまざまな弊害も表面化してきました。
その一つが中国に近く訪れることになる超高齢化社会に対する懸念です。1人っ子政策に伴い少子高齢化は日本よりもずっと深刻な状況であり、年金などの高齢者の社会保障を数少ない若者に負担させるのは到底無理な話なのです。
その一方で、現在沿海地域に存在する現実的な問題は労働力不足です。当ブログでもご紹介したのですが、これまで沿海部に出稼ぎに来ていた内陸の労働者が内陸で仕事を見つけるというケースが多くなっています。富士康(フォックスコン)の例を挙げるまでもなく、いまや内陸部にも求人は事欠かない状況になっているのです。これらの状況により、沿海部の経済衰退が懸念されているのです。
■「新しいことにチャレンジする」広東省
「南方日報」の取材に答えた張楓主任は、広東省がこの申請を提出した背景として次の3点を挙げています。
(1)広東は国の総合改革のテスト地区として、計画出産政策を含めた各方面の政策をまず試すべきだ。
(2)現在広東省の女性の出産率は1.7(女性1人当たり1.7人の子供を出産)となっており、10年連続で低水準になっている。
(3)推算により、広東省が「单独可生二胎」政策を実施したことで及ぼされる人口の総数に対する影響はごく小さい。
これを見たとき私は、(1)~(3)の項目すべてに「広東の自負」が込められていると感じました。古くはアヘン戦争の時代から、広東は北京から遠く離れた地として、「全国に先駆けて新しい物を取り入れ、行う」ことをモットーとしてきました。鄧小平氏が南順し、改革・開放の号令を発したのも広東省でした。改革・開放は広東省から始まったのです。
逆に、江沢民氏が自身の重要思想「3つの代表」の第一声を発したのも広東省です。いわば、「常に新しいことにチャレンジするのが広東省だ」という気持ちがあるのでしょう。
■改革の伏線
しかしこの考え方は、今いきなりわいて出たわけではありません。
南方周末によれば、今年3月に開催された全人代会議でも、多くの全人代代表、全国政協委員が段階を踏んで計画出産政策の緩和を進めるべきだと提案しています。
「南方周末」は3月29日発売の雑誌「財経」からの情報として伝えたところとして、関係部門は現行の計画出産政策の「整備」を考えており、もしその「意見」が下半期以降に中央に承認されれば、年内にも実施される見込みだと伝えました。
その内容は、(1) 2011年に黒竜江、吉林、遼寧、江蘇、浙江の5省で第1陣として試験導入する。(2)そのあと北京、上海、天津など6前後の省・自治区・直轄市に拡大する。(3)2015年までに全国すべての省・自治区・直轄市で実施する――となっています。
ここでわかるように、第一陣の中に広東省は含まれていません。このことが、省政府の関係者のプライドを傷つけたのではと私は考えています。張楓・主任は「広東省はこの政策を提起した最初の省ではない」と釈明していますが、大々的に発表したのは広東省ぐらいです。
ともあれ、プライドと本音が渦巻く広東省のこの発表が、中国の1人っ子政策に風穴を開けることができるのか。国務院からの回答はまだ得られていないようなのですが、これからも注目していきたいところです。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。