先日掲載の記事「首を切られて殺された地方官僚＝政府の「地上げ」に対する恨みか？」ですが、誤報となってしまいました！伏しておわびして訂正する次第です。

死亡した河北省邯鄲市邯山区の張海忠区長は、若くして区長という出世ぶりであり、かつ剛毅な性格で知られておりましたが、実は精神障害を患っておりまして。死亡当日、運転手といつもどおりにラーメンをずるずるっと食べた後に何事もなかったかのように部屋に戻り、すみやかに自殺したという、何の事件性もない自殺でした。


菜刀副本2 / 阿毛头 Amaotou

■事件当日の行動

というわけで、13日、張区長の死因は自殺だったと警察が発表しました（13日付南方週末）。事件当日の張区長の行動は以下の通り。

10日午後12時50分、張区長はお抱え運転手とラーメン屋で食事。その後、区政府庁舎のオフィスに戻った。部屋に戻ると、まずウォーターサーバーのコードを切断。その電流での自殺を試みる。右手に1カ所、左手に4カ所、電流を押しつけた後が残っている。

それでは死ねなかったため、用意していた刃物を使用。包丁2本、カミソリ1本を用意していたが、使用されたのは1本だけ。その包丁で首の大動脈を切り失血死した。オフィスに戻ってから死亡までわずか40分間の早業だった。父の帰宅が遅いことを心配した息子が区長舎を訪ね、午後9時20分に遺体が発見された。

■自殺と断定した理由

警察は自殺と断定した根拠について次のように説明しています。

・窓も扉もしっかりと内側から閉められていた。窓枠には足跡なども残されていない。

・オフィス外の監視カメラ記録では、張区長がオフィスに入ってから遺体が発見されるまで誰の出入りも記録されていない。

・検視によって、首の傷は自力で切れるものと認定された。

・現場にあった血がついた包丁には張区長の指紋が残されていた。

・現場に残されていた足跡は、張区長と発見者のものだけだった。

・ウォーターサーバーのコードが節電されているが、その場所には張区長の足跡が残っている。

・オフィス内は乱れた様子が無く、格闘した形跡などはない。

また、以前から精神障害の薬を飲んでいたとの情報も報じられています。


■被害者の人となり

財新網は関係者の証言を集めています。

現地職員：張区長はやり手。担当業務の土地収用事業もばりばりとこなし、2010年には「土地収用事業における業績」を理由に模範個人に選ばれた。

現地事情通：楽観的かつ豪快な性格で、宴会でも空き缶を叩きながら歌を歌うような性格。まだ48歳と若く、スポーツ好きなイケメンで、女性にももてた。

大学同級生：楽観的で仕事でも向上心に飛んだ張区長が自殺するなんて信じられない。

タクシー運転手：（自殺と聞いて）信じられないよ。噂じゃ殺されたとなると土地収用に支障をきたすから、政治的配慮で自殺と認定された、なんていわれているけどね。

■本当に自殺なの？！

とここまで読んでいただくとおわかりいただけるとは思いますが、なんとも疑わしい「自殺」であります。メディアの反応は2種類。ブログ「中国語翻訳者のつぶやき」さんが紹介しているように「地方官僚も大変だよ、心を病むよね」的なもの（参考リンク）。

もう一つは上述した財新網のように怪しいと疑っているもの。ちなみに財新網は「警察は『自殺』と断定」とのタイトル。警察発表に正面切ってケチをつけてはいませんが、カッコをつけることで抵抗しています。記事につけられたコメントなどを見る限り、ネット民の反応は「自殺じゃないっしょ」のほうが多い印象です。

とはいえ、政府か警察の内部関係者から暴露でもないかぎり、自殺で終わりとなるわけですが……。


■おまけ：密室殺人のトリック

もし今回の事件が他殺だったと仮定した場合。窓も扉も閉まっている。監視カメラにも侵入者の影はない。という完全な密室殺人であります。名探偵の登場が待たれるところですが、「密室だと主張している警察発表が怪しい」というなんとも盛り上がらない解決になりそうです……。