「有機認証?買っちゃうんだよ!」中国的有機農業の危機中国での有機農業に向けた取り組みを何度か紹介してきました。
(「
中国有機食品事情を考えてみた=制度作って魂入れず」など)
今回ご紹介するのは南方週末の記事「
欧米はなぜ中国の有機食品に「ノー」というのか」(2011年7月14日)が伝えた残念なニュースです。寧夏回族自治区のクコの有機認証を例に取り、その問題点について取り上げています。有機認定機関の曖昧さと独立性のなさが問題を複雑にしているようです。

生命的希望 / llee_wu*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。
■厳しくなる検査、拒否される中国産有機農産品
近年、欧米の中国「有機」農産品に対する検査が厳しくなっている。2007年1月から2009年3月までにアメリカに輸出されたクコのうち、残留農薬検出などが理由に24件が輸出を拒否された。また、アメリカ農務省は大手有機認証機関「OCIA」(Organic Crop Improvement Association)の、中国における有機認証資格を停止した。
OCIAが不適切に中国政府関係者を招聘して、政府所有の農場に対して認証したこと。その農場の作物が「米農務省の有機認証」ラベルと共に米国に輸入された
ことが認証資格停止の理由として上げられている。有機認証は必ず第三者機関によってなされなければならないとアメリカ農務省は定めている。
(OCIAのステートメントはこちら(中国語、PDF))■有機認証?買えばいーじゃん
クコ(枸杞)は寧夏回族自治区の特産。肝臓に良いとされ、漢方薬の原料としても用いられる。その産地である寧夏回族自治区中衛市中寧県では、クコの栽培面積は4万ムーに達している。うち有機認証を受けた栽培面積は3,000ムー未満。せいぜい12トン程度しか収穫できないはずで、同県の総出荷量年5000トンのごく一部を占めるに過ぎない。では、はるばる米国にまで輸出され、また中国各地のスーパーに並んでいる有機クコはいったいどこから来ているのだろうか?
「ほとんどは有機認証を買っているんだよ」とある輸出企業は言う。
海外認証機関の中国進出には、中国認証機関との合作が条件とされており、出資比率は中国側が多数を占めることと定められている。例えばECO-CERT(フランス)は中国農業大学、IMO(スイス)は南京英目認証有限公司と組んでいる。
こうして中国側と手を組んだ認証機関は「利益追求」を始めることになる。記事では「認証費用で稼ごうと、有機認証を取るよう企業に営業して来るんだ」(中寧県クコ生産企業)、「認証機関はカスタマーに認証してなんぼだ、認証しなかったら誰も来なくなるでしょ?」(某認証機関)との声が紹介されている。
問題は中国にはまだ有機商品認証に関する強制的国家基準がないこと。ゆえに異なる認証機関が異なる基準で認証しているのが現状で、市場の混乱を招いている。
■考えたこと:基準よりも体制の問題ではないか
中国には無公害農産品、緑色食品、有機食品の3種類の認証があると
以前に紹介しましたが、有機食品認証がこれほど混乱していたとは……。「認証?買っちゃうよ!」という感覚が横行しているとあれば、確かにショッキングな記事です。
上述の過去記事でも書きましたが、不信が不信を呼んでいる中国の食品安全問題。「有機食品よ、お前もか!」と嘆く声が聞こえてきそうです。
無公害農産品、緑色食品は中国が独自に制定した基準です(各種国際基準、特にコーデックス委員会などを参考にしていますが)。一方、有機食品自体は
IFOAM(国際有機農業運動連盟)基準が採用され、中国進出した海外認定機関などが認定しているという仕組みです。
日本では、コーデックス委員会の基準を元にいわゆる「有機JAS規格」が作られ、日本版の農産品有機認定となっています(詳細は
農林水産省ウェブサイト(PDF)を参照)
ちなみに、日本の有機認証機関も中国においても認証を発行しています。南方週末の記事でも、
JONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)が取り上げられていましたが、他にも進出している機関があるようです。日本における有機登録認定機関一覧は
こちらを参照してください。
南方週末の記事は、「中国独自の基準が必要」という主張をしくくられています。しかし、根本的な問題は認証機関が営利追求をむき出しにしていること、しかもそれでいて政府から独立していないことということではないでしょうか。
官にひも付けされた“民間”が利潤追求に暴走するという構図は、「中国特色的市場経済」で多くみられるもの。「中国特色的有機」問題とでもいいましょうか。公的役割を帯びるべき機関までもが過剰に活動を「市場経済化」し過ぎてしまっている。それなのに公的セクターとばっちりつながっているので、独占状態を教授できるという矛盾があるのです。
例えば、中国版有機JASのようなものが仮にできたとしても、「中国特色的有機」の構造にメスを入れられない限り、同じ問題が繰り返されるばかりでしょう。信頼とブランドが重要なのにそれが担保されないという辛い状況ですが、一方で中国国内外の農業関係者には地道に頑張っている人も多くいます。その苦労を無駄にしないためにも、健全な認証体制作りは重要かつ急務です。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。