中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月16日
■無料で本を貸す“ビジネス”
まずは青トマトの仕組みをご紹介。
会員登録するには保証金の支払いが必要。110元(約1380円)支払った人は1度に2冊まで、14日間本を借りられる。210元(約)なら1度に4冊、21日間。510元なら1度に10冊、56日間借りられるという決まり。
サイトで予約すると、本は宅配便で送られてくる。返還もサイトで申請すると、宅配便が家まで集配に来てくれる。本を返せば新たな本を借りることができ、年何冊までという制限はない。保証金以外は完全に無料。
本を無くしてしまった場合は同じ本を買って返すか、あるいは定価の2倍の金額を支払う。期限内に本を返還しなかった場合は1日あたり1冊0.2元(約2.5円)の延滞料を支払う。
現在、北京、上海、広州など全国20都市でサービスを展開している。
■無料ネット図書館のビジネスモデル
米国のネットフリックスや日本のぽすれんなどのDVD・CDレンタルサービスに似たイメージ。本でいうと、書飛網というネット貸本サービスもあります。ただし、いずれも会員費がかかる仕組みで、保証金以外無料という青トマトはきわめてユニーク。
とはいえ、青トマトは税金で運営される公共サービスではなく、「ビジネス」です。彼らはどうやって稼ごうとしているのでしょうか?
その秘密のカギを握るのがサイトトップにある「毎企一館」(各企業に一図書館)というボタン。中に入ると中国石油化学とかオリンパスとか、HPとか大手企業の名前がずらり。企業ページを開くと、経営者オススメの本とかネット動画講座とかが閲覧できる仕組みになっています。これら企業会員からは結構な額の年会費をいただき、本の貸し出しやビジネス講座の動画を見せるなどの従業員教育を提供するというビジネスモデルなんだそうで。
創業者の一人、張麗娟副総裁によると、創業前に2年間にわたるマーケットリサーチを実施したとのこと。各地の企業を訪問したところ、立派な企業図書館があるのに使われていないケースが多々あることを発見したと話しています。企業経営者は従業員に本を読んでほしいと思っているのに、企業図書館はなかなか使ってもらえない。こうした悩みを解消するサービスが青トマトだった、という次第。
他にも「毎園一館」という幼稚園や読書クラブをターゲットにしたサービス、「毎校一館」という大学をターゲットにしたサービスもあります。なるほど、自前で図書館を整備するよりも、安価で充実したサービスを提供できる可能性は高そうです。
■中国現地事情に根ざしたユニークなサービス
「会費を払ってくれる企業、学校向け限定のサービスにすればいいんじゃね?」という気もしないではないですが、「無料のネット図書館ビジネス」とぶちあげることで注目を集められること。公共の利益に奉仕する会社としての名声を確保することで企業もお金を出しやすくなるなどの効果があるんじゃないでしょうか。一種のフリーミアム・モデルと言えるかもしれません。
さて、青トマトがまとう「なんかいい感じ」「なんかおしゃれ」を体現しているのが包装です。段ボール箱とかビニール袋じゃなくて、おしゃれな布製のエコバッグに入れられて本は送られてきます。表には「精神の食料。農薬も防腐剤も含みません」との文字が。
とまあ、ここまでべた褒めしてきたわけですが、本当にビジネスとして成り立つのかは今後の課題でしょうし、規模が大きくなってから方針転換する可能性も十分考えられるんじゃないか、と。
それはそれとして、「公共図書館が使いにくい」「福利厚生、従業員教育の一環として自社図書館を持つ企業が多いが、利用率は低い」「エコとか新たな中産層に受けそうなセンス」といった中国独自の事情にターゲットをしぼって生み出されたユニークなサービスという意味で大変面白いんじゃないでしょうか。
中国でのビジネスを考えている人はぜひぜひ注目して欲しいですし、中国在住者は一回お試しして欲しいなと思う次第です。