中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月17日
きっかけは7月11日付人民日報の社説。「県共産党委員会書記(以下「県党委書記」)が最も腐敗リスクが高いグループだ」と指摘されたのです。「精神が怠惰になる危険、能力不足の危険、民衆から乖離(かいり)する危険、汚職に手を染める危険」という4つのリスクがあるとの内容。中国お得意の数でまとめる論調でそのリスクに警鐘を鳴らしています。
人民日報の社説を受け、南方週末は論評「上級政府は県党委書記を救えない」を掲載しました。「(県党委書記の権限は)外交、軍事、国防以外では、中央政府とそれほど変わらない」とある学者は指摘しています。県レベル以下の人事権を一手に握る県党委書記の権力は絶大なものがあるのです。
安徽省潁上県では一度の会議で190名を「飛ばして」(原文:「动掉」)してしまった例を挙げています。上のレベル(つまり省レベル)もチェックはするもそれには限界があり、やはり同じ県レベル政府の中での相互牽制の仕組みが必要と主張していますが、共産党が行政も司法もコントロール下に置いている現実では難しいでしょう。
まるで悪の巣窟のような扱いを受けている県政府ですが、「オレだって辛いよ」という事情もあります。1994年に実施された分税制導入以降、いわば県レベル以下の政府は「金は来ないけど、仕事ばっかり増える」状態。農業税廃止も財政窮乏に拍車をかけました。
(分税制とは、総税収のうち中央財政の取り分を大幅に増やし、経済運営に対する中央のマクロコントロールを増した改革)
もっとも、財政不足を口実にして、土地使用権を売却して得る土地譲渡金を目当てに土地開発を強行する現象が見られます。一般人にとって最大の財産である不動産を脅かす土地開発だけに人々の恨みは集中します。それに加え、県党委書記の持つ地方における絶大な権力を見ると……やり玉に挙がるのもむべなるかな。
現在中国中央の研究機関と一緒に仕事をしていて思うのは、確かに中国の中央レベルに関して言えば、メディアも含め多くの監視の目にさらされており、また色々な会計制度もより細かく、厳しくなって来ていると感じます。もちろん、中央の人たちはそういう公金流用以外の諸々の(合法なのも含め)「ビジネスチャンス」「副収入」があるのかもしれず、また大物すぎる汚職事件は報道もされないのかもしれませんが、まだ日本よりは大分緩いにしても、公金使用がどんどん難しくなっているのは事実です。
その一方で、地方はまだまだ好き勝手やっている状態です。地方に出張した時の方が、「これどうなの?」っていう無駄にすごい建物や、無駄に豪華な宴会に出くわすことが多く、違和感を覚えることありまくりなんです。メディアで取り上げられるような、「うわぁ、そりゃあないでしょ!?」というトンデモ事件が起きるのも地方政府が多めです。
KINBRICKS NOWの記事「ホワイトハウス8個分?!菜の花畑に出現したゴージャス政府庁舎―中国安徽省」やレコードチャイナの記事「有名建物を模倣した“パクリ版”豪華庁舎が続出、ホワイトハウスや天安門まで」もそれぞれ舞台は県政府です。
今メディアで引っぱりだこの社会学者・于建嵘も中国新聞週刊のインタビューで、「県レベルは(司法機構も含め)全ての行政機能をカバーしている上、また住民に直接向かい合うレベル。ここから中国の改革を始めるのが正しいし、社会の安定につながる」とその重要性を指摘しています。
(于建嵘については記事「デモ・抗議運動は年間9万件=窮乏化する農村の実情をSNSで伝える研究者」を参照。)
2008年末現在で中国に2859ある県レベル政府、往々にして人口100万人単位で住民に行政サービスを行うに適したレベル。一方、各地で起きているという国内での暴動も、多くは「国の民主化!」といった大上段に構えたものよりも、地方政府の汚職や失政、立ち退きなどの無茶な行動に抗議するのがきっかけがとして多いのも現実です。この県レベルのガバナンスが機能するかどうかは国の安定にも大きく関わってくるでしょう。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。