中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月20日
■中国の化学肥料施用量は世界一、これ以上は逆効果だ
7月18日付ChinaDaily紙は「Use of chemicals 'threaten grain output'」(化学肥料使用が穀物収穫に与える脅威)との記事を掲載。今後の食糧増産を農業用資材(化学肥料、農薬)に頼ることの限界を指摘し、警鐘を鳴らしています。
2007年以来中国の化学肥料施用量は世界一の座につき、今では年間5000万トンを利用。80年代の4倍になっています。これまでの増産に対する化学肥料の貢献は認めつつも、これ以上の過剰な投入は食糧増産に結びつかないどころか、環境汚染を引き起こすことになると同紙は警告しています。
モニタリングが実施されている26の湖、貯水池のうち、42.6%が富栄養化しているともされ、農業科学院の張維理研究員は、「中国はこれ以上化学資材に頼って食糧増産をしてはいけない」と語ります。
■化学肥料に汚染された地下水
日本向けも含む野菜産地である山東省では、特にその問題は深刻です。2011年7月4日経済観察報では野菜の一大生産・集積地として有名な山東省寿光を例に挙げ、具体的に事例をあげています。
コメや麦といった穀物よりも野菜の方が肥料を食うことは一般によく知られるところ。野菜産地ではその影響が懸念されます。2005年に284カ所で実施された調査では、化学肥料が主な原因とも見られている地下水中の硝酸態窒素の濃度が、26.3mg/Lを記録しています。中国の基準は20ppm(=20mg/L)ですから、平均値からして既に環境基準を超えてしまっているのです。
以前には豊かな「農業都市」としての側面を紹介した寿光ですが、長期的な目で見れば農業がもたらす環境汚染は無視できないものです(参照記事)。
■進まない新肥料技術の普及
経済観察報記事によると、農業部は2005年から測土配方施肥プログラムを始動。2008年からは緩効性肥料の普及を始めました。
(測土配方施肥プログラムとは、土壌診断に基づいて科学的に配合された複合肥料を施肥するというもの。本サイト参考記事。)
(緩効性肥料とは、作物の成長時期に合わせゆっくりと肥料が溶け出していくタイプの肥料)
ただし、測土配方施肥は農民の意識の欠如、分散している農家経営から普及が難しいとのこと。緩効性肥料については、価格が普通の肥料より10%ほど高いことが普及を妨げていると指摘しており、政府の補助金などでサポートする必要があると訴えています。
また、最近流行りの有機農業も同じく環境破壊の問題がないわけではありません。、家畜の糞などを原料とした有機肥料だって、使い過ぎれば同じように環境を汚します。また家畜の飼料に含まれる銅などの重金属が土壌の重金属汚染を引き起こす場合もあります。そうなってしまえば、土壌改良は簡単にはできないのです。
■「普通の食品」の安全をいかに確保するべきか
China Dailyと経済観察報の記事を紹介しましたが、両記事とも特に新しい観点ではありません。ですが食料品物価が急騰する中、これまで何度か取り上げた高価な有機食品とは全然違う、「普通の人が食べる普通の農産品をどうするか」という問題を改めて考えさせられました。
「食品が安全でないから有機で!」というのは新しいライフスタイルも含めて良いトレンドだとは思いますが、13億人を抱える一国の経済・農業全体を考えればそれだけでは問題は解決しません。適切な化学肥料、農薬使用で解決できる問題も多いわけです。
これまで中国の農家と話した中で感じるのは、彼らは環境保全に対する意識が無いわけではないということ。特に化学農薬のもたらすリスクには敏感です。それがゆえに自分の食べる農作物は別の田畑で育てているという人も多いくらいなのです。
ただし、その意識に適切な知識が加わらないと、行動が変わるところにまでは至りません。「化学肥料、農薬をこの程度まで減らしても収穫は減らない」という技術と知識を、より広くに伝えていくという地道な作業が、増産と環境の間で揺れる、しかしながら明らかに増産の方に振れがちな中国農業には必要でしょう。
*追記:2011年7月20日、タイトル及び小見出しの「化学肥料投与量」を「農薬使用量」に変更しました。
*追記:2011年7月22日、「農薬使用量」を「化学肥料施用量」に変更しました。たびたびのミス、ご容赦ください。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。