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2011年07月22日
■出会い
2007年、李龍旺が16歳の時、職場近くのアクセサリー店で一人の女の子・李英と出会った。すらりとしたプロポーションと清純な大きな瞳で、見る者誰もを魅了する美しい姿をしている。一目惚れした李龍旺は話しかけたが、李英は適当に言葉を返すだけ。最初の出会いはそれだけで終わった。
だが運命だったのだろうか、2人は翌日も出会うことになる。李龍旺が遊びにいったネットカフェに李英もいたのだ。李龍旺は隣の席に座り、話しかけた。実は李英も同じく「ネットの虫」だったが、わずかなお小遣いでは十分に遊べないというのが不満だ。そこで李龍旺は「これからネットしたくなったらオレを訪ねなよ。金を出してやるよ」と社会人パワーを発揮。さらにいろいろとお菓子を買ってやった。これで一気に李英は好感を抱くようになり、その夜、2人は結ばれたという。その後、数日、2人は仕事も学校もさぼり、一緒にネットカフェで遊び続けた。
1カ月後、仕事をさぼりがちとなった李龍旺は仕事をやめた。李英の両親はまだ15歳の娘が彼氏を作り学校をさぼるようになったことを知り、殴ってしかりつけたが李英は言うことを聞かない。結局、学校を退学して家を飛び出した。
こうして16歳の少年と15歳の少女はともに生活するようになったが、まもなく李英が妊娠していることがわかった。2人は中絶を考えたが、李龍旺の母親が反対し、故郷の道県に帰り出産することとなった。
■子どもを売るという「名案」
2008年9月、李英は男の子を産んだ。だがこの新たな命は家族にとってただの負担でしかなかった。若い両親は子どもそっちのけでネットに夢中。李英は産後のまだ体を休めなければいけない時期に家を飛び出してネットカフェにいくありさまだった。
ネット中毒の2人とその小さな息子。彼らの生活は李龍旺の母親一人の稼ぎが頼りだったが、当然支えきれるものではない。出産から1カ月後、李龍旺と李英は息子を母親に預け、広東省東莞市へと出稼ぎに出かけた。李龍旺が一人で働いて、ネットカフェで遊びほうける李英の分まで稼ぐ。そんな生活がしばらく続いたが、避妊のやり方もよく分かっていない李英は間もなく再び妊娠する。
中絶を考えたが、1000元(約1万2500円)もする費用が払えない。2009年12月、李英は娘を出産した。自分たちの生活だってままならないのに、2人目の子どもなんてとても養えるものじゃない。そう思った李龍旺は「名案」を思いついた。そうだ、娘をお金持ちに売ればいいじゃないか。そうすれば自分たちも「補償金」をもらえるだろう、と。
李英の賛成を得て、李龍旺は子どもを売った。代償として得たのは3000元(約3万7500円)の「補償費」だった。血のつながる娘を売ったことに、2人はいささかの罪の意識も覚えなかったという。それどころか思わぬ大金を手にして大喜びで、服を買い、美味しいものを食べ、そしてネットカフェにいりびたった。
■親戚にも母親にも見捨てられ……
息子を母に押しつけて東莞市に飛び出してから1年あまり。2人は一銭も母親に金を送っていなかった。このままでは生活できないと母親は毎月数百元の生活費を送るか、それとも道県に戻って子どもの面倒を見るか、どちらかを選べと通告した。
苦しい仕事をしたくないと2人は道県に戻る道を選んだ。かわりに母親が出稼ぎに出かけ、2人に生活費を送るという取り決めだ。だが、2人は息子をおじさんの家にあずけると、やはりネットカフェに入り浸りの暮らしを続けた。母親から送られてくる金だけが頼りだ。ただそれだけではお金がたりない。
親戚の家をわたり歩いて、ご飯を食べさせてもらった。次第に親戚からもうとまれるようになる。相変わらず無為に日々を過ごしていると知った母親も金を送ってこなくなった。こうして2人は再び追い込まれていく。その時、李英の3度目となる妊娠がわかった。
■またまた、子どもを売る
金を送ってくれと何度も母親に電話したが、同意してくれない。結局、2人はもう一度子どもを売ることを決めた。2011年2月、2人はおじさんの家にあずけていた息子を引き取った。「妻の実家にあずける」というのがその名目だ。金がない2人は道県に隣接する江永県まで歩いていき、道行く人に「子どもは要らないか」と訪ねて回ったという。
最終的に江永県のある旅館経営者が仲介し、買い手を見つけることができた。まだ2歳の息子には3万元(約37万5000円)という値段がついた。他に旅館経営者が7000元(約8万7500円)の仲介料を取った。
大金を手にした2人は広東省恵州市に移り住んだ。まもなく3人目の子どもが生まれる。男の子だった。李龍旺は大家に「経済的に困窮しており子どもを育てられない」と話し、引き取り手を探してもらうよう頼んだ。長年子どもを授からず困っている夫婦が見つかり、生後数日の息子は7000元(約8万7500円)で引き渡された。
■人身売買の発覚……告発者は母親
2011年6月15日、李龍旺の母親が2人を連れて江永県公安局にやってきた。孫娘の行方が分からなくなってしまった。警察で2人にちゃんと話して欲しい、と。
取り調べの末、2人はすべてを話した。この3年間に3人もの子どもを売っていたという事実を。
この重大事件を警察も重視。売られた子どもたちの行方を追った。7月17日、ついに警察は湖南省婁底市で、今年2月に売られた長男の行方を突き止めた。子どもは数人の仲介人の手を経て、ある夫婦に引き取られていたという。
その夫婦は子どもたちを可愛がり、子どもも大変なついている。子どもの健康的な生活を考えれば、今の養父母の下にいるほうがいい。だが法律はこうしたケースで産みの親の下に子どもを帰すと定めている。事情を考慮した警察は、一時的に子どもを養父母のもとに預けることを決めた。ただし、産みの親が子どもを返して欲しいと言った場合、従わなければならないとの取り決めも書簡で交わしている。
だが、李龍旺と李英にはその気は全くないようだ。紅網記者は17日、拘置所にいる2人を訪ねた。2人はそろって「子どもはいらない」と答えている。それどころか、重大な犯罪を犯したという意識すらないようだ。緊張した様子もなく、へらへらとしながら「私たちはいつ出られますかね?」などと話していた。