中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月25日
■鉄道部の発表に疑念を強める国内メディア
ただ2日目の24日になり、国内メディアがこの鉄道部の発表に対してますます疑いの念を強めていることを私は感じ取っています。
中央テレビも35人という数を踏襲した報道をしているものの、現地からの記者レポートでは、「まだ多くの家族が事故に遭遇した負傷者と連絡が取れていない」と報じており、自発的に連絡がとれないほどの重い傷を負った人たちがまだ多数病院にいることをほのめかしています。このことは連絡が取れていない行方不明者がいるということを示しているのでしょうか。
夜になり、時事通信や産経、読売、朝日の各紙は電子版で、「今回の事故による死者が43人になった」と報じました。これは王勇平鉄道部報道官が「死者が43人になった」と明かしたとする文章が中国国内のネットで広まったからです。しかし中国のメディアが報じた死者数は35人から変わりませんでした。
このようなさまざまな疑念を払拭するため王勇平鉄道部報道官は、日本時間午後11時42分ごろから記者会見を行いました。
この死者数のニュースについて報道官は、「そのようなことは言っていない。死者は35人だ」と明確に否定しました。
■事故車両の埋設作業は「危険回避」の為?
また24日には中国国内メディアにより、事故車両を現場に埋めたことが報じられました。この報道を踏まえ、記者は王勇平報道官に「事故車両をなぜ埋めたのか」と質問しました。これに対し報道官は、「事故車両を埋めたのは『抢险(危険回避の緊急措置)』のため」と釈明しました。これ以前では「車両を埋めたという事実はない」と強弁していましたから、前言を撤回させたことになります。
これらを見れば、2日目になっても情報がはっきりと定まった状況になっておらず、鉄道部が今回の事故について、一元化した情報を発せられるだけの統制力を持てていないことがよく分かるのではないでしょうか。
■中央テレビは質疑応答を中継せず
この記者会見ですが、鉄道部の事故処理のずさんさに業を煮やした多くの記者が真相について報道官に問い詰め、丁々発止のやり取りがあったようです。
このような状況でもなお王勇平報道官は、「中国の高速鉄道技術は進んでおり、私はこのことに今でも自信を持っている」と胸を張りました。
この記者会見の模様は中央テレビでも実況中継されましたが、冒頭のブリーフィングのみ放送され、記者による質疑応答のくだりが中央テレビで中継されることはありませんでした。ここのところはさすが「政府メディア」だといえます。
■中央テレビ評論員が記者会見を非難
しかし政府メディアとしての中央テレビに「変化」が感じられたところもありました。記者会見の実況中継の後に、中央テレビの特約評論員が王勇平鉄道部報道官の記者会見について、「鉄道部が提供している情報も、遺族に対する哀悼の意も、全くのところ不十分である」と断罪したのです。
ともあれ、このことは鉄道事故の対応のまずさに業をにやしているのは中国の大衆だけではなく、中国政府もガマンの限界に近づいているということを印象付けたものとなりました。
このまま鉄道部の不手際が続けば、盛光祖鉄道部長の更迭という事態になることは間違いないでしょう。鉄道部にある旧態依然の情報隠蔽体質は、中国にとって政権を揺るがしかねない要素になりうると言えます。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。