中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年07月26日
■「敵対的にならず愛情を持て」
共産主義青年団系の『中国青年報』ですから、当然この記事が掲載された目的はいうまでもありません。最初に「高速鉄道は開通してまだ10日しかたっていない「赤ん坊」なのだから、皆辛抱強くあり、愛情のある関心を持つべきで、できるだけ寛容であり、疑いはなるたけ少なくすべきだ」としております。
続けて、「寛容であれば、双方共にうち解けて、相手に欠点などがあっても受け入れることが可能となり、その欠点を克服するよう手助けできるが、敵対的な態度であれば、小さいミスも許すことができず、互いに報復の機会を探るようにさえなってしまう」としております。
つまり、この記事では大衆は最初から高速鉄道に敵対的な感情をもっているので、少しのミスも許すことができず、それが故に、ここまで大騒ぎをし、こうした大騒ぎが更なる感情の悪化を生んでいると言いたいわけです。その上で何故大衆が最初から反感をもっているかということを分析するわけですが、とりあえずここで、一回私の感想を述べさせていただきます。
■臨機応変な中国人
これはあくまで私の感想ですが、中国人は日本人に比べて悪く言えば「いい加減」、良く言えば「臨機応変」です。日本人は決められた規則があれば、そのとおりにやることが良いと思う傾向があり、100%を目指します。そのため事故はなくて当然、少しの事故でもあったら大変という思考パターンになります。
ただこれは必ずしも良いことばかりではなく、度が過ぎると、決められたことしかできない、融通がきかないという欠点にもつながります。その点中国人は思考パターンが異なり、うまくいくなら多少規則を曲げても良いのではないか、結果オーライならそれで良いのではないかと考えることが結構あります。だからこそ、規則より関係(コネ)がものを言ったりすることがあるのではないかとも考えます。
当然こうした考え方には長所と短所があります。長所としては状況にすぐ対応できるという点で、現在のように変化の速い時代では確かにかなり有利です。しかし、うまく行っているときは、それで良くても、原理原則がないがしろにされる可能性も否定できす、問題がなければ(問題が小さければ)、それでOKとされてしまいかねません。
つまりこの記事もそうした発想が先にあり、開通したばかりという特別の状況があるのだから、少しおおめに見てくれというわけです。その結果たとえ小さな事故でも起こしてはならないという原理原則がないがしろにされてしまっているような気がしてなりません。
■高速鉄道の為に「格安路線」が減少
さて、ここから再度記事に戻りますが、なぜ大衆が高速鉄道に対し良くない感情を持っているかというと、一言で言えば切符代が高いからだとしております。中国では出稼ぎに出ている者が多く、旧正月の時期に実家に帰り家族団らんを迎えるというのが伝統行事になっております。
しかし、出稼ぎをしている者は金のために外地に働きに行っているわけで、帰省するため(移動手段)に金を使ってしまったのでは何のために働きに行っているのはわからなくなってしまいます。そのため、当然帰省するときは一番安い切符を買って帰ることになるわけで、そうした方々にしてみれば高速鉄道が開通しようがしまいがどうでも良い話です。
车箱行李架上的哥们 / 刘云天
では何故悪感情につながるかというと、高速鉄道のために路線が減ってしまったからです。日本でも同じですが、新幹線や特急が通るようになると、それが最優先され、その他の鉄道は割を食うことになります。出稼ぎに来ている人にして見れば、ただでさえ買うのが大変な切符が、路線を減らされたことにより、ますます買いにくくなってしまったのでは、当然良い感情を持つはずがありません。
それも自分が乗ることができない(金持ちしか乗れない)高速鉄道のためとなれば、ますます反感は募ろうというものです。勝手に自分の言葉でまとめてしまいましたが、記事はこんな感じで分析をしております。そのため最後にとってつけたように、高速鉄道は経済発展のために必要だが、こうした人達のことも考えなくてはいけないとして記事は終わっております。
そうはいってもなかなかその調整が難しいのが現実で、一般論で言うのは簡単ですが、実際どうするかと言われるとなかなか難しいのではないでしょうか。ま、それは置いておいて、中国の一般大衆が高速鉄道に対しどのような感情を持っているか、なかなか面白い分析だったので紹介させていただきした。
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。
なので死者35人(上限)