中国と周辺国の関係が悪化したのはアメリカの謀略?『
中国新聞網』の記事「外媒:和平崛起面臨挑戦 中国如何“重返亜洲”」(外国メディア:平和的台頭は挑戦の時を迎えた=中国はいかにして“アジアに帰還”するべきか)が、久々にこれぞプロパガンダという論調でした。興味深かったので簡単にご説明します。
ちなみに「外国メディア」というものの、原文はシンガポールの中国語新聞『聯合早報』。もともと中国語の記事を転載しただけです。
さて、内容はというと、一言で言ってしまえば、「
南沙諸島などの領土問題から中国と東南アジア諸国の関係がおかしくなっていたり、中国脅威論が唱えられるようになっているが、全てはアメリカの陰謀。中国は策略に乗ってはならない」というものです。
Old Glory / TheodoreWLee
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。
■アメリカ謀略論
記事冒頭に書かれている前提からして、振るっています。曰く、「アメリカの没落と中国の台頭が続いているが、それでもなおアメリカは世界最強の国家である。アメリカの目的は世界のリーダーであり続けることであり、いかなる国が勃興したとしても、脅威と見なす。ゆえにアジアの発展や一体化などはアメリカにとって受け入れがたいのであり、アフガン政策もそこそこに目標をアジア、特に中国にねらいを定めてきた」と分析しています。
中国を狙った戦略というのは次のようなもの。
(1)中国脅威論を吹聴し、アジア各国に中国の発展に対する警戒や心配感を植え付ける。
(2)アメリカのアジア太平洋地位における利益と指導的地位が揺らぐようなことがあってはならないと公言する。
(3)同盟国などを用い、価値観に基づく外交を行い、中国を孤立させる。
(4)中国と周辺国家の対立を引き起こして、地域的・歴史的問題を国際化し、中国を終わりのない紛争の中に押し込む。
こういう見方もできるのかと気づかせてくれる、なかなか興味深い意見ではあります。プロパガンダ記事を読んで唯一、面白いのは、新たな視点を教えてもらえることでしょうか。
■アジア諸国との摩擦の理由付け南沙諸島にしろ、尖閣諸島にしろ、アジアにおける領土問題であり、当事者間で解決するべきというのが中国の基本的な主張です。アメリカがクビを突っ込む理由はなんだ?とかなり根強い反感を抱いているわけです。
周辺国にしてみれば、中国のような国と1対1でやりあったら、太刀打ちできずいいようにやられてしまうという不安感があります。だからこそASEANでまとまって交渉するか、アメリカに助けてもらうかという状況に持ち込みたいのです。
中国の理屈では、「中国こそが平和を愛する国家であり、話し合いを重視する国家。周辺国が中国を何の理由もなしに恐れるはずがない」ということになります。しかし、現実的には、ベトナムの反中国デモしかり、東南アジア諸国との関係に異変が生じているのは事実。この現実を説明する理屈が必要です。
そのために用意されたのがアメリカ謀略論なのです。東南アジアと中国との関係が悪化すると、アメリカの陰謀で説明を終わらせる。これ自体はいつものことですが、ただ全く根も葉もないものデマなのかというと、そうとも言い難い面もあるのが興味深いところです。
■「覇権循環論」例えば、アメリカはロバート・ギルピンなどが提唱した「
覇権循環論」を本気で信じているのではないかと思える行動も多いのです。いかにして覇権を維持する負担を減らすか(他国にその分のを負担させるか)を考えている面も、ないとはいえないでしょう。
1980年代に貿易摩擦問題でアメリカの批判を真っ向から受けた日本は、追い抜こうとする国に対して、アメリカがどのような感情を向けてくるのかを目にしています。そのため、先に述べた「アメリカの目的は世界のリーダーであり続けることであり、いかなる国が勃興してきても脅威と見なす」というのは全くピントはずれというわけではないようにも思えます。
「火のない所に煙は立たない」と言いますが、全く根拠がない話には説得力がありません。いかに信憑性をだすかがプロパガンダ記事のカギであり、今回の米国陰謀論もその点をうまくクリアしているのではないでしょうか。
■中国はいかに対処するべきか?
ちなみに、記事では中国がいかに対処するべきかという方策も紹介されています。
(1)アメリカの戦略を冷静に分析すること。
(2)中国は世界第二位の経済大国であり、外貨保有高は世界一なのだから、こうした資源を有効に活用すること。
(3)新興国やヨーロッパとの関係などもうまく利用すること。
(4)力(パワー)こそが外交の基礎であり、力がなくては外交もありえない。
いつも通りの中国ですね。不思議なものですが、「力こそが外交の基礎」などちょっと剣呑な文言があっても、「これぞ平常運転の中国だ」と安心してしまいます。
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。