中国メディアがついにキレた昨日の夜にいつもの中国メディア巡回をしていたら、新華社、人民日報はもちろん、ポータルサイトなどの巡回ルートのほとんどから温州列車追突事故の報道が一気に無くなっていることに気付きました。
先に「ハートフルな報道強化」を打ち出して失敗した宣伝部が、初七日を迎える30日を前に本気で事故報道の抑制にかかったらしく、禁令が出たのが29日午後。30日分も用意していたメディアは事故関連の紙面を直前差し替えるハメに。『21世紀経済報道』、『中国経営報』、『新京報』(北京)、『銭江晩報』(浙江)、『華商報』(西安)などが被害に遭っています。
(関連記事:「
【鉄道追突】報道規制に反抗した民間メディア=日本人が知らない報道の多様性―北京で考えたこと 」KINBRICKS NOW、2011年7月30日)

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


事故が発生した浙江省の『今日早報』だけではなく、『河南商報』(河南)、『上海青年報』(上海)『廈門商報』(福建)など一部メディアは一面を使って宣伝部に反旗を翻し、抗議する姿勢を見せています。
■『経済観察報』の衝撃的な紙面
その中でも異彩を放っているのが、KINBRICKS NOW寄稿者のいまじゅんさんが記事で紹介されている経済観察報の「做有良知的媒体」(良識あるなメディアたれ)と題されたコラムで、事故後の当局寄り報道に対する記者の怒りが伝わってくるいい文章です。

*経済観察報。
同紙は「温州に奇跡はない」という特集を7面に渡って組む力の入れ具合で、「鉄道部解体」「鉄道部は何を隠しているのか」「鉄道部の心は鉄か」など鉄道部批判を展開しており、上述のコラムもこの特集の最終ページに組み込まれています。
ところが、紙面のPDF版は削除されており、サイトからも記事にたどり着けませんでした。他紙のサイトからも事故関連の記事はきれいに姿を消しています。私は日本にいて確認は出来ないのですが、紙面からも消えているはずです。
28日の温家宝講話では「事故調査は透明に、社会と群集の監督を受けながら情報を公表していく」と約束されました。
ところが、宣伝部からは全く逆の姿勢が打ち出されています。それに殆どのメディアがなびいているわけで、宣伝部よりずっと上位にいるはずの温家宝の口約束より、直接の監督機関でお偉いさんの人事権を握る宣伝部の指示を重視している表れなのでしょう。
■禁令を無視する『南方都市報』と『財経』
そんな息苦しい中でも、禁令などなかったかのように事故報道を続けているのが、『南方都市報』と隔週刊行の雑誌『財経』であります。


*南方都市報。
クソッたれな「奇跡」(南方都市報、2011年7月31日)
40人が亡くなった悲惨な事故とその後の鉄道部のお粗末な対応には、我々はこの言葉を送りたい。「クソッたれ!」
鉄道部が引き裂いた、国家の純真(南方都市報、2011年7月31日)(今回事故で両親を失った)伊伊は絶対公開の場に出てきて、『歌唱中国』を歌うだろうね。んで、司会が大声で「偉大な勝利だ、奇跡だ」と叫ぶんだ。
記事ではなく微博のつぶやきを転載したという体裁も使い、鉄道部批判を展開。
■雑誌『南都週刊』でも大々的な事故特集

2011年第29号「死亡高速鉄道」(南都週刊、2011年7月27日)南方都市報を抱える南方報業メディアグループは、傘下の雑誌南方週末、南都週刊でも事故を特集。
高速鉄道の初歩的知識から、事件後に湧いた様々な疑問に迫る南都週刊の特集号は、是非手にとって読みたい内容になっています。ネットで読めるのは途中までで、続きはipadという南都も残尿感の残る結末。ipod touchではダメですか。
■『新京報』は列車事故映画の紹介で風刺列車事故モノのパニック映画(新京報、2011年7月29日)
例えば新京報はこの時期に『新幹線大爆発』と『カサンドラクロス』を紹介するという意味深な記事を配信。
ただしこれは禁令が出される前日29日の記事です。こういう遊びが出来たのも29日まで。禁令後にほとんどのメディアが(経営など理由はあるにせよ)綺麗に日和ったのと対照的に、上記で紹介した『南方都市報』、『財経』の2誌がしつこく報道を続けている姿勢は当然評価されるべきですが、なぜ続行できるのでしょうか。
■命懸けで発禁を破る2誌の覚悟1つには経営陣の覚悟でしょう。記者達を食わして行かなければならない、苦しい立場でありながら、報道続行を決意したわけです。体制批判記事を書いた記者が襲われたり殺されたりするような新聞社に入社しようとする記者も、覚悟の上でそういう選択を支持するのだと思います。
もう1つは南方や財経が禁令を無視しても、停刊処分を受けさせないような後ろ盾がいるのではないでしょうか。後ろ盾の存在があってこそ、経営陣も強気に出られるのだと思います。これといって後ろ盾の心当たりがあるわけではありませんが、社としての覚悟だけでは乗り切れないはずです。
■鬱積した記者たちの怒り今回の事件で、中国人記者の当局への怒りは並々ならないほどにまて高まっていると感じました。社としては日和らざるを得なかったにしても、一時的にでもこれほど多くの新聞が反旗を翻したわけですが、これまでの様々な事件、事故を「不讓報」(報道させない)当局に対する鬱憤が相当蓄積されていたのでしょう。それは発禁にしても消えるわけではありません。
一部の遺族が当局と合意に達したものの、依然として駅で抗議活動が続けられていますが、仮に抗議活動が収束しても、記者たちの抗議とは別のものと分けて考える必要がありそうです。
それにしても、中国にいて実際に紙面を手にとって読めないのが歯がゆいですね。
【追記】新京報が禁令後に列車事故の報道を止めたと書きましたが、先ほど何気なく新京報のサイトを開くと、2005年に起きた福知山線の事故後処理報道にかこつけて鉄道部の対応を批判したり、楊峰さんが亡くなった妻との思い出の品に10万元(約120万円)の懸賞をかけると発表したことが報じられています。
なお、他の遺族もブランド物の高級品を中心とした遺品が見つからないとして、その遺失物リストが発表されています。日本の報道では事故現場に火事場泥棒が集まって列車の部品などを掘り出していましたが、一緒に持ち去られたんでしょうか。

福知山線の事故後対応について(新京報、2011年7月31日)
犠牲者15人の遺族が同意書にサイン、遺品行方不明、楊峰の懸賞金について(新京報、2011年7月31日)PDF版だけではありますが、このように報道を止めたわけではありませんでした。新京報の名誉のためにも、ここで訂正致します。新京報の中の人が読んでいたら、この場でお詫びいたします。読んでいなくてもお詫びいたします。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。
香港蘋果日報も1面にでかでかと「他○的」の三文字が、彼らの本気度が伺えます。
↓
http://tw.nextmedia.com/mobile/rnewsarticle/artid/54953/issueid/20110726