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2011年08月02日
インフレ局面が続く中、中国各地でタクシーのストライキが続いていた。官制メディアの紙面を飾ることこそ少なかったが、ネット掲示板やマイクロブログを見る限り、日常茶飯事だったようだ。今回は上海市と杭州市という大都市でのストライキとなったため、報道をもみ消すというわけにはいかなくなったようだ。
■上納金×ガソリン代×渋滞=杭州のストライキ
1日付南方週末がストの背景となった杭州市タクシードライバーの懐事情を伝えている。1回の出勤での売り上げはおよそ500元(約6000円)程度。ここから220元(約2640円)を会社に上納(中国のタクシーは基本的にある特定のタクシー会社に属しており、1日いくらの上納金を支払うシステム)し、200元(約2400円)がガソリン代に消えるという。残る金は80元(約960円)程度。これではとても生活できないというがドライバーたちの主張だ。
また2日付財訊によると、上納金とガソリン価格高騰に加え、悪化の一途をたどる渋滞もタクシードライバーにとって打撃となっているという。朝夕のラッシュ時はとても商売にならないと営業をとりやめるドライバーまで出現している。
4000人が参加した大ストライキに杭州市政府は素早い対応を見せた。2日付中国経営網によると、乗客を1回乗せるごとに政府が1元(約12円)の補助金を支払う制度の導入を決めたほか、10月末までに料金値上げ、上納金値下げなど根本的な対策を導入する方針を打ち出している。
■上海の事情
上海のストライキは事情がもう少し複雑だ。ストライキが起きた8月1日はタクシー料金値上げの施行日だったからだ。一般市民の批判を浴びながらも市政府は値上げを決行したのに、なぜ運転手たちはストライキを決めたのか。
2日付毎日経済新聞によると、タクシー運転手らは企業に年金補助を要求しているという。各タクシー企業の看板を背負っているとはいえ、実態はほとんど個人事業主に近い状態。日本のような配車サービスもなく、「タクシーの権利」を獲得するために仕方なく会社の参加に入り上納金を払っているのが実情だ。タクシー会社は、一般企業のような年金積み立て補助金を支給していなかった可能性が高く、これが運転手らの不満を招いたのではないだろうか。
■変わらない利権構造
タクシーのストライキといえば、2008年の重慶市が思い出される。8000台のタクシーが2日間のストライキを決行。その後、中国各地に飛び火し、各地でストライキが展開される騒ぎとなった。問題の構造は当時から変わっていない。上納金、ガソリン代、渋滞、そして交通違反の罰金。これらのコストがかさみ、運転手の生計を圧迫しているという構図だ。
特に問題なのが上納金だ。現在、中国の各都市は渋滞対策として、タクシーの新規参入を厳しく制限している。タクシーの枠はいわば利権となって売り買いされる対象となっている。大手タクシー会社はその枠を握っていて、各運転手に貸し出し、上納金をとっているのだ。古株のタクシー運転手だと、自分で枠を持っているケースもあるが、その場合は上納金は少なくて済む。
タクシー運転手のストライキがあるたびに、各地方政府はガソリン代補助金や値上げなどの対策を打ち出してきたが、この利権構造そのものにメスを入れたところはない。今回、杭州市が上納金引き下げを打診すると表明したが、果たして実現は可能だろうか。
インフレと利権構造に苦しむ中国のタクシー運転手。彼らの置かれた境遇はある意味、現代中国社会の縮図と言えるだろう。