中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年08月04日
■低所得者向け住宅1000万戸を今年中に建設
2011年3月5日、第11回全国人民代表大会第4回会議が開幕した。同会議で目玉となった政策が「低所得者向け住宅、年内1000万戸建設」の大目標だ。中国政府にとって、今、インフレ対策が最大の課題となっているが、低所得者向け住宅の拡充により、不満を和らげたいとの発想だろう。
記事「低・中所得者向け公共住宅1000万戸着工=政府目標に黄信号」で紹介したが、着工が遅れ本当に1000万戸建設できるのかとの懸念も広がっていたが、その後の大号令で建設は急ピッチで進んでいる。その一方で今度は別の問題が浮上した。それが欠陥住宅問題だ。
*画像は新華網の報道。踏み抜いた床を見つめる住民。指でいじるだけでコンクリートは軽々と剥離していく。
■落とし穴住宅、ダイエット鉄筋、石炭クズレンガ
2011年8月、新華網は「品質劣悪な低所得者住宅ならば建てないほうがましだ」という論説記事を発表した。各地の住宅で次々と品質問題が明らかになっているという。安徽省安慶市太湖県の新築団地では、外壁や柱にひびが入り、水がもれるなどの問題が続発。中には床を踏み抜いてしまった住民もいる。写真を見る限り、床はきわめて薄く、鉄筋も申し訳程度に入っているだけだ。
太湖県の団地は氷山の一角に過ぎない。猛烈な勢いで低所得者向け住宅が建設されている一方で、猛烈な勢いで欠陥住宅が見つかり、入居前に取り壊されるケースまであった。泣き寝入りした住民が我慢して住んでいるケースはもっと多いはずだ。
7月25日には海南省で345トンもの「ダイエット鉄筋」が見つかった。「ダイエット鉄筋」とは、中国ではよくある不正手法。鉄筋を引き延ばすことで材料費を浮かすというものだが、細くなった分だけ鉄筋の強度は落ちている。河南省鄭州市では、くず石炭を混ぜて作ったレンガも発見されている。
■「上に政策あれば、下に対策あり」
中国不動産産業の儲け方は典型的なバブル商法。政府の土地払い下げを銀行から借りた金とコネとを駆使して、なるべく多く取得するのが商売のかなめ(中国語で「圏地)。後はぼちぼちと建物を建てて売っていけばいい。地価は年々上昇しているので、急いで売る必要はない。手元に寝かせている時間が長ければ長いほど、資産価値は上昇していく。
取得から着工までの期限を決めたり、業者間での用地転売を禁じたりと中国政府は規制を導入してきたが、業者(そして、業者とつるむ地方政府)はのらりくらりと交わし続け、効果をあげられないでいた。
だが、低所得者向け住宅の商売は全然違う論理となっている。分譲用マンションと公共賃貸マンションとに分かれているが、基本的には「一定条件のマンションを作るのが条件。どれだけ安く作れるかで入札」という手法がとられている。これでは地価上昇でおいしい汁を吸う不動産マジックを使うことができない。今までも欠陥住宅はごまんとあったが、低所得者向け住宅が特に「秘伝手抜きテクのオンパレード」となっている背景にはこうした事情があると考えられる。
低所得者向けに公共住宅を提供するという発想そのものは間違っていないと思うのだが、業者側の発想を読まずに号令を下すと、結局、民草を傷つける政策になってしまう。誰もが必死に抜け穴を探し続けている中国で、有効な政策、規制を導入することの難しさを改めて思い知らされる問題となった。