中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年08月06日
■中国コメンテーターの主張
過剰ともいえる反応は、白書に中国の軍事力拡大に言及した項目があったからでしょう。加えて、中国の南シナ海における膨張戦略について、新たに項目が設けられたことも関係していると思われます。
中央テレビの評論番組「環球視線」やその他ニュースで、一番目にした解説者は軍事専門家の尹卓氏です。「ひゅうが」「いせ」といった大型護衛艦の建造や第5世代のステルス戦闘機開発などを例に出しながら、日本は震災などで経済的に逼迫しているにもかかわらず、絶えず軍備を拡大していると指摘。中国の軍事力拡大を大々的に喧伝することで、日本は自国の軍備拡大という事実を隠そうとしているのだと主張しました。
社会科学院日本研究所の高洪副所長は4日の環球視線に出演。東日本震災で中国の政府や民間が日本に援助を提供し、雪解けの兆しができたにもかかわらず、日本は対抗姿勢を崩していないと主張し、「防衛白書は昨年9月7日の船舶衝突事件当時の思考のままで止まってしまったかのようだ」と嘆きました。
■日本叩きの目的とは
このようにみてみると、論調としてはかなり日本に厳しいものであることが分かります。8月になって急に日本関係の報道が増えてきた背景には戦争記念日である8月15日を控えていることもあるのですが、私はもう1つ原因があると見ています。それは中国の世論の流れのコントロールです。
7月下旬は、高速鉄道事故により一般市民の怒りが一気に政府へ向かいました。この動きに危機感を抱いた中国政府は温家宝総理を現地に送り込んで沈静化を図りました。ここまでは皆さんもご存知だと思います。
しかしメディアやネットでは政府に対する不満がいまだにくすぶっています。このような不満にどう対処していくか頭を抱えているときに、防衛白書のニュースが飛び込んできたわけです。日本という格好の標的を見つけた政府は矛先を日本に向ける世論作りをメディアに命じたというのが今回の報道振りの背景じゃないかと私は考えています。
どちらにせよ中国政府はこれから、8月15日に向けて歴史問題や防衛問題でますます矛先を日本に向ける世論形成を図っていくのでしょう。と同時に、高速鉄道事故の風化を進めていくと思われます。
このような状況に「なんだかなぁ」と思っているのは私だけでしょうか。
*当記事はブログ「中国語翻訳者のつぶやき」の許可を得て転載したものです。