中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年08月11日
■減速は果たして安全確保につながるのか?
減速など今回の決定はもちろん先月23日の高速鉄道追突事故を受けてのもの。ただし、安全確認はともかく減速が果たして事故防止につながるかは疑問が残るところだ。事故は悪天候による信号トラブルと、トラブル発生後に安全優先の判断ができなかったというシステム的問題、人為的問題が重なったことにより発生した。
つまり速度超過は直接的な原因ではなかった。早すぎる速度がリスクを生むということならば、武漢・広州間高速鉄道、北京・天津間高速鉄道、北京・上海間高速鉄道など時速350キロ路線をもっと減速するべきだろう。50キロ落として300キロにしても、日本ののぞみと同速度で世界最高レベルだ。技術的成熟が必要な中国にとってはリスクのある数字だ。
■本当のリスクはどこにある?
根本的な原因は鉄道路線がきわめて複雑化したことにあるのではないかと個人的には考えている。14億人の中国では旅客需要は膨大にある。列車はいくら走らせても足りないのだ。そのため、きわめて過密なスケジュールで、しかも始発も終点も違う列車が同一のレールを共用するという状況が生まれている。
例えば、「専用線」という触れ込みでスタートしたはずの北京・上海間高速鉄道も、一部路線を別の列車と共有している。日本でいえば、東海道新幹線の一区間を在来線の特急が走っているようなものだ。
■国務院会議、本当の戦果
そう考えると、最高速度減速は「速度優先から安全と人命優先へと方針転換します」というアピール、パフォーマンスの要素が強いのではなかろうか。
逆に実質的な意味を持つのは新設路線の安全評価再実施だろう。国務院(日本の内閣に相当)主導で許認可をやり直すということは、鉄道部の利権を奪う第一歩となる。日本メディアでもさんざん報じられてきた「国務院(中国政府)対鉄道部」というバトルで、国務院は大きな戦果を上げたと言えよう。
鉄道部解体まで攻勢が続くのか、それともある段階で手打ちがあるのか、今後の展開が注目される。