中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年08月12日
温家宝総理の全人代における政府報告によると、2011年度は三農問題対策費として前年比15%増となる計9,885億元、(約12兆3500億円)の計上する方針とのこと。農業支援の予算規模としてはすでにEUと肩を並べるレベルに達しています。
まだ貧しい農村ももちろん多いのですが、一般的なイメージ以上に補助金がつぎ込まれているのです。今回参照する南方週末8月4日付記事の「豚荒」記事にも、その一端が現れています。ただし、補助金は今のところ「質より量」、「とにかくやってます!」とアピールだけしているような荒っぽさが目立つ面も……。
■拡大する補助金は効果を上げているのか?
例えば、前回のブログエントリー「零細農家から大企業へ、端境期の中国農業=「豚荒」から読む中国農業」でも紹介した養豚の大規模化を推進するため、年間出荷頭数が500-999頭の事業主には20万元(約240万円)、3000頭以上では80万元(約958万円)もの補助金が支給されることが紹介されています。
豚肉が高騰すれば豚肉生産を促す補助金を支給というのも筋には見えます。しかし、7月4日付財経誌記事は2007年時の豚肉価格高騰、そしてその後導入された各種の補助金による増産刺激策(母豚1頭毎に100元(約1200円)支給など)を例に出しつつ「既に価格高騰それ自身が生産意欲を拡大させているのに、ここでむやみに補助金を支給すればまた生産が過剰になってしまう」と、補助金が価格乱高下の遠因にもなってしまう可能性を示唆しています。
さらに「ただ出しゃ良いってもんじゃない」という現実もあります。現在中国の地方省の畜牧局は子豚へのワクチン接種を無料で行っていますが、これが全く信用できないと南方週末記事は伝えます。「畜牧局の無料ワクチンは使えないよ」と語る農家は、同局が冷凍・冷蔵しておくべきワクチンを平気で常温で放置してしまっているのを見ているからです。結局この農家は自分でお金を払って国産ワクチンを2回打ちます。高品質の輸入品は1回で済みますが「やっぱり高いからね」と国産で我慢。政策が実施される現場で効果を発揮してない様子を伺わせます。
■中国版「戸別所得保証」の是非
日本の民主党政権が打ち出した「農業者戸別所得保証」ではありませんが、中国でも今は穀物栽培農家に「食糧生産直接補助金」(原文:种粮农民直接补贴)等諸々あわせて100元(約1200円)前後/ムー(地域によって異なる)の補助金を支出しています。事実上の「所得保証」と言えるでしょう。
その名の通り「食糧生産」に与えられるわけですが、収量がどう増えたかという点とは必ずしもリンクされているわけではないのが問題です。とにかく耕地があって穀物が植わっていればもらえるという状況なのです。これら補助金が本当に「増産」につながっているかどうかは疑問視する声もある一方、「まあ農民は生活が苦しいんだから」というある種の福祉政策化しているという理解もあります。
■量から質への転換が図れるか?
もちろん富が農村から都市に流れるばかりでったのが、農村に徐々に還元されるという方向性は良いことでしょう。胡・温体制以降の「格差是正重視、三農問題重視」から2004年の農村・農民への各種補助金・農村支援策の大きな流れがスタート、そして2006年には農業税を正式に廃止と、「やってまっせ!」という姿勢は、農村支援として確かに打ち出されています。
でも、今では農村支援プログラム・計画の類いは30にわたる中央省庁及びその関連団体にまたがり、120種類にも及ぶとのこと!(「中国農村経済」2010年8月号より)その規模が年々拡大する一方(習近平体制以降にも継続されるのかは注視していきますが)、そろそろ「ただじゃぶじゃぶ金出せば良いってもんじゃない」という動きがでてきてもいいはずです。量より質に舵が切れるかが、今後の農業関連補助金のポイントになってくるでしょう。
*当記事はブログ「北京で考えたこと」の許可を得て転載したものです。