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【JARO】話題の記事「中国官製メディア、高速鉄道に知的所有権がないと認める」の問題点

2011年08月18日

わが高速鉄道に知的財産権はない 詐称を認める=共産党機関紙」というショッキングなタイトルの記事が、ヤフーニュース記事アクセスランキング(海外)の1位になっています(2011年8月18日午後3時現在)。

わが高速鉄道に知的財産権はない 詐称を認める=共産党機関紙
サーチナ、2011年8月17日
追突事故の発生以来、自主開発と主張する中国高速鉄道の知的財産権問題に対して常に疑問の声が上がっている。中国共産党の機関紙である人民日報のウェブサイト・人民網は15日、「わが国の高速鉄道には知的財産権を主張できる技術は存在しない」と認め、今後はより安全性を重視すると主張した。国際財経日報は同日、「政府メディアがはじめて詐称を認めた」と報じた。

(…)

人民網はエンジニアの発言を引用し、「数年すれば国外の設計を元に、中国でもボギー・モーター・変圧器などの生産や、国外の核心部品を使ったコンバーターや自動制御システムの組み立ては可能になるだろう。しかし、先頭車両の設計基準・原理・車体を広くすることのリスクの有無などは分からない。われわれにできるのは、塗料の塗り方や座席の素材の変更、室内装飾程度のことだ」だと報じた。
20110818_jinminami
*誤って出典元が人民網になっている網易の記事。


「高速鉄道は中国が知的所有権を持つ国産品」と豪語してきた中国がついに方向転換したのか!と関心ある人なら誰もが驚く内容ですが、実はこの記事は人民網のオリジナルではなく、政府批判的な報道もびしばし載せることで定評のある財新網(紙媒体では「新世紀週刊」)から転載しただけのものなのです。


この記事ができるまでの流れを復元すると……。

高速鉄道、独自の知的所有権=奇跡の誕生と終わり(新世紀週刊、中国語)

復元:高速鉄道独自知的所有権=奇跡の誕生と終わりの真相(人民網、中国語)
タイトルだけ修正、中身は一緒。「出所:新世紀週刊」と明記。

復元:高速鉄道独自知的所有権=奇跡の誕生と終わりの真相(網易、中国語)
人民網から転載。ミス(?)って「出所:人民網」と誤記

壁にぶつかった中国“独自”高速鉄道=官制メディアが初めて知的所有権がニセモノだと認めた(国際財経日報、中国語)
網易の転載記事を読んで、「官制メディアが独自技術はないと認めたぞー!」と大興奮する誤解。記事を書くも、他の中国メディアは釣られずほとんど反響なし。

わが高速鉄道に知的財産権はない 詐称を認める=共産党機関紙(サーチナ)
なぜか海を越えた日本のメディアだけが国際財経日報の勘違いを拾う。ちょっとググれば元記事が見つかったはずなのに、そのまま書いてみる。

祝!ヤフーニュース海外ランキング1位

サーチナが間違えたというか、その前の時点で間違えているのですが、元記事ぐらいあたっておいてもバチは当たらないんじゃないか、と。

また、「中国独自の知的所有権にケチをつける記事」を人民網が転載したことにどれだけ意味があるかという話も別にあるんですが、「鉄道部バッシングは今のところOK」というぐらいの意味しかないと思われます。というのも、中国ウェブメディアはきわめてカジュアルに他人様の記事を転載するので、あまり深読みしても仕方ないケースがほとんどなので。ときおりめちゃくちゃ変な記事がAsahi.comの人民日報提携欄に載るのもそうした事情です。
(参照:あの「立体バス」、来年から運用開始へ?!天下の朝日新聞様が釣られているッッッ

ちなみにサーチナは「高速鉄道「わが国は日本側の忠告を無視していた」=中国報道」(8月15日)でも、記事アクセスランキング(海外)の1位をゲットしているのですが、この記事の元ネタが新世紀週刊の「高速鉄道、独自の知的所有権=奇跡の誕生と終わり」。つまり、今回の元記事と同じものです。同じ元ネタで2本のヒットとはやたらと効率いいですね。

ちなみにこちらの記事では、「財新網」を「新財網」と誤記しているというおまけもついています。また表題にも使われている「日本側の忠告を無視」というのは7月4日付朝日新聞に掲載されたインタビューでして。これまでにも南方週末にも引用されるなどよく知られているネタ。当然、財新網の記事でも中核となる部分ではないのですが……。

あんまり野暮なことをいうつもりはないのですが、今回の記事で「中国が独自の知的所有権主張をやめたぞー」と誤解が広がり、で、後になってから「知的所有権はないって言っていたのに、中国め、また言うことが変わったぞー」と話題になるのかな……とブルーになったので記事にしました。


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