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2011年08月22日
-あらすじ-*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。
女性刑事・張瑶は大捕物の最中に偽造身分証を持っていた高飛という男を捕まえる。彼はネトゲを通じて知り合った他人の妻を寝取ったとして、女性の夫から人肉捜索にかけられていた。高飛の個人情報はまたたく間にネット中を駆け巡り、顔の見えないネットユーザーから犯罪紛いの嫌がらせを受けることになる。
不倫容疑で指名手配された高飛は逃亡中、ついに警察に捕まってしまった。不倫相手の林燕もまた、不倫がバレたため家を追い出され、ネットユーザーの目から身を隠しながらの、当てのない逃亡旅行を続けていた。
高飛が釈放されてまもなく、不倫相手林燕の首無し死体が浜辺で発見される。彼ら2人にしつこく付きまとっていた記者、人肉捜索を呼びかけた林燕の夫、そして警察の調査。多面的な調査から次第に事件の様相が浮かび上がり、林燕を殺した人物の謎が明らかにされていく。
参考:百度百科 無形殺
■「人肉捜索」がテーマ
2009年公開のこの映画のテーマは「人肉捜索」です。「人肉捜索」なんて今でこそ手垢に塗れたネタで話題としても落ち目ですが、2009年当時ならまだ賞味期限内といったところでしょう。ボクもブログで何度か取り上げましたし、『人肉捜索』というタイトルの小説も読みました。
「人肉捜索」を改めて説明しますと有象無象のネットユーザーが総力を結集して、気に入らない人間の個人情報を暴きネットと現実世界でターゲットを徹底的に追い込んだり、疑わしい事件の真相を究明したりすることを言います。
前者は「中国紅十字 郭美美事件」(*エクスプロア上海)、後者は「華南虎事件」(*サーチナ)が有名どころでしょう。ネットで不正が明らかになるということは人肉捜索の良い側面であり人肉捜索支持者の言い分としてはポピュラーですが、その裏にいったい何人の人肉捜索被害者がいるのか忘れてはいけません。
■記憶力の良い面々
この映画『無形殺』は人肉捜索の凄まじさが誇張されて描かれています。それは物語冒頭で高飛を尋問する張瑶が「アンタ、どっかで見た顔ね」と口にした疑問に集約されているでしょう。ただ、高飛と林燕の横をすれ違った通行人が振り返るってのはいささか失笑を禁じえない演出ですが。
■迷脇役
過剰演出を最も表しているのがこの映画の影の主人公である記者2人組です。
カメラマンの六角精児さん(写真上)は高飛たちを追うのは仕事だと割り切っているのでまだマシです。しかし高飛と林燕関係の掲示板で一番過激な書き込みをしていたことから六角さんの相棒に選ばれた一般人の中年男性(写真下)は言動が芳ばしすぎます。
金持ちは銃殺だと路上で息巻いたり、高飛に対してオレたちネットユーザーに謝罪しろと迫ってぶん殴ったり、我々ネットユーザーは高飛を裁く権利があるんだと警察に釈明したりと、正直見るに耐えません。いい年した大人がネットの書き込みをリアルで言うと人間の尊厳はここまで下がるのかと、視聴者が落ち込むレベルです。
しかしこの2人がいないと警察と高飛たちの視点でしか物語は描かれなくなってしまい、作品のキモである人肉捜索の恐ろしさと面白さが伝わりません。というわけで、中年男性のデフォルメされたキャラ設定も仕方ないと言えば仕方ないのですが。
*補足
実はこの映画は「銅須門事件」という実際にあった事件がモデルになっています。死者こそ出ていませんが事件の発端や経緯は映画そっくりなので、ここではURLを貼るだけにしておきます。ちなみに「門」とはスキャンダルや話題の事件に使われる言葉。先日の味千ラーメン濃縮還元スープ事件も「味千門」と呼ばれています。アメリカのウォーターゲート事件(水門事件)が発端です。
参考:百度百科 銅須門事件
■社会派というナマモノ
一時期は隆盛を誇った人肉捜索専用サイトも今や、情報伝播の速効性と膨大な利用者数を誇るマイクロブログにすっかりお株を奪われています。「現在高飛を尾行中なう」というシーンがなかったのは映画の製作時期のせいですけど、たったこの一言がないばっかりに2009年上映というこの映画が一層古臭く感じられてしまいました。
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*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。