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ポスト胡錦濤時代の支配者たち=次期政治局常務委員を大胆予想2―中国コラム

2011年08月25日

■次期常務委員を予想してみる2■

前回は前提となる条件を整理しないままダラダラと書いてしまいました。要約すると、

・中国共産党の最高意志決定機関・中央政治局常務委員のポストは9つ。
・現任9人のうち、習近平と李克強は残留。残る7人は定年。
・来年10月の党大会時点でまだ67歳以下の政治局委員10人がこの7つのイスを争う

ということです。
(前回記事:「14億人を支配する9人の老人=次期政治局常務委員を大胆予想―中国コラム」KINBRICKSNOW、2011年8月14日)

さて気になる顔ぶれですが、習近平と李克強は失脚クラスの失政か、誰かにハメられるか、病死でもしない限り総書記、総理にそれぞれ就任するのは当確です。序列は十五大からの慣例で、習が1位、李が3位というのも確定。習近平は糖尿病が危なそうなので、李克強が逆転を狙うなら砂糖をこっそり足した王老吉(中国でポピュラーな健康飲料)でもわたしておけば良いかと。

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阿波羅網の報道。


*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。


■昇格資格を持つ政治局委員10人


続いて、次期常務委員を争う政治局委員10人を簡単に説明します。中国の政局というと、太子党、団派という派閥で分けられることも多いのですが、李源潮のように両方に該当する御仁もいます。

2007年の中国共産党第十七次全国代表大会(十七大)では胡錦濤の後ろ盾を得て昇格しましたが、風向き次第で太子党に寝返る可能性はあります。つまり単純にカラーリングできないのです。どっちに転んでもいいようにリスクヘッジするのが大人ですから。

・王楽泉中央政法委副書記(第二位)
1995年から新疆ウイグル自治区党委書記、新疆生産建設兵団第一政治委員を15年務めた新疆王の異名を持つ実力者、でした。

2009年にウルムチ市で「ウイグル騒乱」が発生すると、その責任を負わされた形で解任。政治局委員の地位こそ確保したものの、格下の中央委員である孟建柱より序列が下の中央政法委副書記(第二位)に左遷されており、常務委員になれる要素がありません。終了候補の最有力です。

・王岐山国務院第四副総理(金融、貿易)
90年代は中国四大銀行の頭取を務め、広東省副省長時代にアジア通貨危機下で不良債権を問題を処理し、SARS隠蔽でお鉢が回ってきた北京市長として事態収束に素早く動くなど、有能な官僚であり、金融通。アメリカとの関係もよろしい。

副総理としては序列は一番低いものの、担当する分野は金融や貿易という華々しい分野。八面六臂の活躍を見せており、何をやってもイマイチな李克強が評価を落とすなか、ひょっとして総理にとまで言われましたが、やはり常務副総理として李克強を支えるのではないでしょうか。個人的には髪の毛が2323でないのが心配です。

・劉雲山中央宣伝部長
93年から中央宣伝部副部長として丁関根に9年、部長として李長春に9年仕えている宣伝部門のナンバー2(トップは李長春)。太子党大躍進なら左旋回に欠かせない人材ですし、他に適任者もいない事から、李の後を襲って宣伝部門トップ(中央精神文明建設指導委員会主任)になる可能性はきわめて高いものと思われます。

・劉延東国務委員(序列一位、教育、科学技術)
中央統戦部長、全国政協副主席、文教担当の国務委員を歴任する女性唯一の政治局委員。通称ババア。幹部の子弟しか入れないことで知られる烈士子女保育院(院長は曾慶紅の母・鄧六金)に預けられていた太子党でもあります。

共青団時代に胡錦濤に仕えたからみで、失脚した陳良宇(上海市党委書記)の後任になるのでは、あるいは十七大で常務委員入りするのではと噂されましたが、いずれも果たせず。政治局委員でありながら、国務院でのポストは国務委員止まりであること。担当分野が教育と他に比べて弱いことを考えると、昇格するとしても名誉職的な全国政協主席しかないでしょう。

・李源潮中央組織部長
中国共産主義青年団(共青団)、青年聯合会(青聯)と胡錦濤に近い経歴を持つ団派。十七大で中央候補委員から政治局委員へと飛び級昇進を果たしました。党中央の人事を一手に握る組織部長の要職にあります。また、父は上海副市長という太子党という顔も持ち合わせています。日中友好議連訪中に続いて北朝鮮を訪問し金正日と会見するなど、いよいよ顔を売る段階に入ったのでしょうか。

十八大時点で61歳と若く、最長で2期10年務められるので今回は見送ることも可能ですが、ポスト習近平に意中の人を送り込みたい胡錦濤としては、今回常務委員入りさせて露払いに使うのではと予想します。組織部の前任者である賀国強の後を襲って中央紀律委書記が妥当かと。

・汪洋広東省党委書記
李克強、李源潮と同じ団派。労働者上がりという太子党とは対極にいる人物です。安徽、重慶、広東と地方行政経験が長く、広東省書記就任2年目に世界的金融危機に遭遇しました。中小を切り捨てると発言しては温家宝と対立。春運(旧正月の民族大移動)でも温家宝と対立。今も質の高い成長への路線転換を捨てない、できる子です。

温家宝だけではなく、薄熙来ともバトルを展開しています。打黒(マフィア・汚職官僚摘発キャンペーン)、紅歌(革命歌キャンペーン)、パイ論とバトルのネタは尽きません。メディアを使った論争をライブ観戦出来るのはありがたいのですが、メディアは薄熙来押しの模様で形勢不利でしょうか。

今年は足元の広州市で暴動が発生しました。前述の「質の高い成長」への路線転換を後見役の胡錦濤が目立ってバックアップしないのも不思議なところで、勢いは失速気味。これからの巻き返しに期待しますが今回を逃してもまだ2期10年務められるのは現役最年少の強みです。

・張高麗天津市党委書記
広東省の石油会社から広東省、山東省を経て現職。石油と言えば周永康と繋がりが深そうですが、個人的にノーマークなので語るものがありません。

・張徳江 国務院第三副総理(工業、交通、エネルギー、社会保障、安全生産)
金日成総合大学経済学部卒という経歴から、同窓の将軍様が中国入りすると必ずお供にはせ参じる北朝鮮とのパイプ役。吉林省、浙江省、広東省党委書記と地方トップを10年以上務め上げたあと、国務院副総理としてインフラや人的資源を担当。

以前は江沢民に近かったのですが、胡錦濤側についたとチラホラ。ところが先日の事故処理で温家宝の批判を受け、姿を消したのはいかにもマイナス印象が拭えません。引き続き事故処理のトップではあるようですが、何かあったのは確かでしょう。

担当分野が解決不可能なものばかりで不利ですし、恐らく王岐山が常務副総理になるでしょうから、副総理→全人代委員長は万里や呉邦国で前例があるので、昇格ならこの線かと。

・兪正声上海市党委書記
父が天津市長の黄敬、母が北京市副市長を務めた范瑾という100%太子党でありながら、兄の兪強声がアメリカに亡命という下手すれば政治生命終了にもなりかねない汚点で、出世が遅れました。

湖北省という内陸部のトップでありながら十六大で政治局に選出され、十七大では上海市党委書記に「昇進」。先日の老いを感じさせるコメント(参照記事)が気になりますが、太子党勢力が予想以上に伸張すれば常務委員入りもありえます。

・薄熙来重慶市党委書記
現役政治局委員で、最も派手な動きをしている分かりやすい人。習近平が「打黒唱紅」運動を賞賛したのをはじめ、呉邦国、李長春、賀国強、周永康が前後して重慶を訪問し、支持を表明しています。胡錦濤、温家宝、李克強は重慶入りしていないのがポイント。温家宝が本気で政治改革を唱えているかどうかはともかく、薄熙来のことを「文革の残滓」呼ばわりしているほどです。

打黒を発端とした汪洋とのメディアを使った対立は何度かお伝えしていますが、メディアも常務委員も明らかに薄熙来推し。十八大の人事では、打黒の実績を考えれば政法委書記。商務部長時代に顔を売ったことを考えれば国家副主席として習近平をサポート。政治的保守派の呉を継いで全人代委員長という線も考えられます。


■第18期政治局常務委員予想

さて、以上を踏まえた上での最終予想が以下の表です。ポストは一部修正があるでしょうが、顔ぶれはこれで動かないはず。

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太子党3人、団派3人と均衡させてみました。矢吹先生と同じ顔ぶれ(21世紀中国総研)ですな。前提条件が殆ど同じだから、仕方ないんですけどね。王楽泉が常務委員入りしない理由は先に述べました。劉延東は単なる人の良いおばちゃんですし、常務委員入りすれば過去政治局委員だった女性党員や孫文の嫁などを超えちゃって釣り合いが取れなくなるので没。

張高麗は、最近天津から常務委員が出ていないのと、彼でないと困る理由が無いので外してみました。日本のチャイナヲチャに軽く「外してみました」とか言われる張高麗かわいそう。太子党は2世だから繋がっている、というよりは思想的な繋がりの方が怖いのです。薄熙来が首都北京で血統論をよりどころに頑張っていた「聯動」、李源潮が上海市紅衛兵の幹部、兪正声が黒龍江省で大暴れというお歴々。

太子党は胡錦濤率いる共青団(青幇)に対して、紅幇と呼ばれたこともあります。紅歌はたんなるノスタルジーとしてプッシュされているのではなく、それしか頼るものがない二世によって派手な政治キャンペーンとされているという印象です。党内に二世が多すぎて受け入れられてしまっているという状況ではないでしょうか。


■大穴は孟建柱

予想には入っていませんが、大穴とも言える存在が孟建柱(中央政法委員会副書記、武警第一政委、国務委員、公安部長)。先日も暴動の起きた内モンゴルに行ってましたし、過去にもウイグル、上海と続けて事故や暴動の仕切りを任されています。ウイグルは王楽泉、上海は兪正声と格上の政治局委員の縄張りだったにもかかわらず、です。

武装警察の実権を握っているのも孟ですし、政法委副書記の序列では孟と王楽泉が逆転しているなど、中央委員とはいえ大きな権限を握っています。ただ十七大で政治局委員に昇格していない点を考えると、「十八大で政治局委員に昇格し、常務副書記を続ける」に留まるのではないか、と。

前任者の周永康は十六大時点ですでに政治局委員になっていました。中央委員なのか、その上の政治局委員なのか。ここが決定的な差なのです。今年の六中全会で黄菊以来となる政治局委員昇格があればわかりませんが、政治局委員昇格後1年で、常務委員に昇格した前例はありません。


■習近平の「次」も着々と


さて、ついでに習近平の次の話を。胡錦濤は十七大で李克強を後継者に据えられませんでした。二十大(2022年開催予定)に向けて、胡春華、孫政才、周強あたりを政治局委員に昇格させ、「習近平の後」に子飼いを送り込む方針に変えたのだと思います。最右翼の胡春華は北京市党委書記への転出が何度か取りざたされています。政治局委員でないと北京市党委書記にはなれませんから、まず十八大で政治局入りし、十九大で中央書記処入りして総書記見習いにするという算段でしょうか。

今後、党大会が近づくにつれ、より精度の高い予想ができるようになるでしょうが、そんなのは予想ではなく答えを書き写しているのと同じ。来年までまだまだいろんなことが起きるでしょうが、現時点での予想をご笑覧ください。

*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。

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