■東野圭吾の憤慨■中国の出版界で起こるべくして起こることがようやく起きてしまいました。ただし、
マイクロブログのつぶやきという怪しげな情報に基づいた話であることは先に断っておきます。もっとも内容は十分にありそうな話ではあるのですが。
*昨年度、中国で高収益を得た外国人作家トップ10にも入る東野圭吾氏。写真は星島環球網より。
■今後、中国に版権を与えない? 事の発端は中国の推理小説家が8月18日につぶやいた発言です。
信頼できる筋からの情報によると、東野圭吾はもう中国に新作を出版する版権を与えない。既に契約済みのは別として。
*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。
このつぶやきには本日22日現在で700近いリツイートを集め、コメント欄は推理小説読者の怨嗟や絶望の声で溢れかえっています。そして、これに呼応した別のユーザー(出版関係者)が新たな情報を持ち込みました。
■要因は電子書籍の無断販売?
App Storeに電子書籍版の東野圭吾全集(簡体字版と繁体字版)が売りに出されているのを見た東野が中国語の版権を与えないと宣言した。
新浪微博:凤凰雪漫钟擎炬
■昨年のニュースと混同している可能性も
このニュースが本当だとしたら、中国人はもう二度と東野圭吾の新作が読めないことになります。ただ、最初の衝撃的な発表から4日経った現在、この件に関するオフィシャルなコメントはどこからも出ていません。
iTunes App Storeで村上春樹や東野圭吾などの日本人作家の中国語版書籍が無断で電子書籍化されて売られていたことは去年の11月にニュースになりました(参考:「
無断で「1Q84」電子化~中国版、作家ら削除依頼」U.S. FrontLine、2010年11月9日)。翌12月には中国の
鳳凰網にも掲載されています。
この1件でApp Storeは著作権違反の海賊版でも販売できるサイトとして問題になりました。海賊版や無断アップロードは中国では今や犯罪の臭いすら感じさせないほど日常的な現象なので、多くの人間はこの問題に対して無頓着になっていますが、この堂々とした著作権違反には中国人作家もだいぶ苦しめられています。
全く改善されない中国の海賊版書籍問題に東野圭吾がとうとうキレて中国語版作品の出版を禁止したというニュースは信じるに足る話です。しかし、マイクロブログユーザーが去年のニュースと混同しているんじゃないか?という疑いも拭えません。
ちなみに東野圭吾は
2010年度中国で最も金を稼いだ外国人作家トップ10にランクインされています。
(参考:「
在中国最赚钱的外国作家富豪榜」百度百科)
もしこのニュースが真実なら中国の出版社は金の卵を産むニワトリをみすみす逃がしてしまったことになります。この件に関しては落ち着いて続報を待つことにしましょう。できるだけ、日本からの情報を、ですがね。
■著作権侵害の二代巨頭は百度とアップル(Chinanews)
さすが中国ミステリーにどっぷりの阿井さんだ!と感嘆した、面白い記事でした。ここではちょっとした補足情報を。中国小説の海賊版問題において最大の問題児として批判されたのが百度文庫。ユーザーが文書ファイルを共有できる便利なサービスでしたが、著作権的に真っ黒なコンテンツばかりがそろう世界となってしまいました。大企業・百度に対して、作家、出版社、電子出版社らが共同でバトルを挑み、世論の支持の下、謝罪を引き出したのが今年3月の話です。
(参照:百度が謝罪、電子書籍共有サービスからの海賊版排除を約束―中国)
百度を撃破した作家、出版社らは7月4日、「作家権利擁護連盟」を立ち上げましたが、次のターゲットはアップルだと言明しています(
中国新聞網)。海賊版書籍アプリが横行しており、その被害額は10億元(約120億円)を超えるというのが彼らの見立てです。
日本のiTunes App Storeでも、中国語海賊版アプリは出回っています。
*東野圭吾33冊セット250円*ドラゴンボール全巻セットアプリ。無料。
*伊藤潤二恐怖マンガ精選アプリ。無料。
海賊版王国・中国では、ネット掲示板に直接貼り付け、ファイル共有サービス、P2Pファイル共有ソフトなどなど無数のルートがあるので、iTunes App Store経由の海賊版が他に抜きんでて多いのかまではわかりませんが、国際的大企業であるアップルが海賊版アプリの販売を容認していること、その売り上げから手数料収入を得ているというのは許し難いところではないでしょうか。裁判してもちゃんと賠償金支払ってくれそうですし。
以上、補足情報でした。
<続報>東野圭吾の中国市場撤退問題を考える=海賊版を当然と考える中国の消費者―北京文芸日記(2011年8月28日)<関連記事>
あのマンガもこのマンガも全部タダ!バイドゥジャパンの電子書籍共有サービスが真っ黒すぎて怖い(KINBRICKS NOW、2011年2月1日)村上春樹から太宰治まで=中国人オタクが読む日本の小説(ラノベ以外)―中国オタ事情(KINBRICKS NOW、2011年4月16日)*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。