• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

【追記】2011年南シナ海問題が残したもの=東南アジアの軍拡競争

2011年09月10日

*2011年9月10日追記
8月末から9月初頭にかけ、中国とベトナム、フィリピンの間で目に見える形の「手打ち」儀式があったので、追記しました。追記部分は最後の「手打ち」の項目をご覧ください。


今年5月から注目を集めてきたのが南シナ海問題。中国、ベトナム、フィリピン、そして米国の思惑が交錯する神経戦となった。わかりやすい手打ちの儀式はなかったものの、「各国の緊張感を高めながらの様子見」という段階に移行したように思われる。そこで、2011年5月から8月の南シナ海問題について簡単にまとめておきたい。


■発端

領土問題で中越対立、ベトナムは米国を後ろ盾に強硬姿勢(KINBRICKSNOW、2011年6月6日)

争いが表面化したのは5月26日のこと。ベトナム政府は同国国営石油会社の船舶がスプラトリー諸島(南沙諸島)周辺を探査中、中国の監視船に妨害されたと発表した。また31日にはベトナム漁船が中国監視船から威嚇射撃を受けたとも発表している。中国は今年7月にも同海域に石油採掘プラットフォームを設置するとも噂されており、ベトナムも探査作業で対抗。中国も強硬姿勢を見せて激突した。


Sailors man the rails aboard the guided-missile destroyer USS Paul Hamilton as the ship returns home / Official U.S. Navy Imagery



■ベトナムの反中感情拡大

探査船が妨害されたベトナムでは、デモやハッカーの攻撃など反中感情の拡大が伝えられた。

20110606_nvbing2

「中国打倒」 南シナ海領有権めぐり、ベトナムで再び反中デモ(MSN産経ニュース、2011年8月14日)反中デモは6月初めからほぼ毎週日曜日に行われ、警察が強制解散させたこともある。だが今月初めにハノイ市の警察トップが「愛国的デモは抑圧しない」と明言、デモが公式に容認されたような形となった。
最終的には6月5日から計10週間連続で実施された、はず。産経が伝えているように「当局の黙認」と「解散させようとするが参加者がなかなか従わない」という相反するニュースが伝えられた。

チャイナドレス着用の女優に批判殺到=急速に高まる反中感情―ベトナム(KINBRICKS NOW、2011年6月13日)
ベトナムの有名女優・La Thanh Huyen(吕青玄)さんがベトナム人ネットユーザーに批判される事件が起きた。先日、Laさんは中国を訪問。ある外資系企業が主催する国際会議に出席した。その際、花柄のチャイナドレスを着用したが、ネットユーザーからは中国の対立が深まっている時期に着るべきではないと批判された。

【中越対立】実弾演習に続き徴兵令公布!強気全開のベトナム政府(KINBRICKS NOW、2011年6月14日)
1979年の中越戦争以来となる徴兵令公布。今すぐどうこうという話ではなく、「戦争が起きた時、どういう人間が徴兵を免除されるのか」を定めたものですが。


■フィリピンの動き

ベトナム以外では、フィリピンでも動きが見られた。他では台湾も掃海艇と戦車を派遣しようかなどという話があったぐらいか(参照:やうちさん、ニュースだよ!)。

【南シナ海問題】「中国製品をボイコットせよ」と州知事呼びかけ=フィリピンもネタを提供(KINBRICKS NOW、2011年6月15日)
15日、フィリピン政府は、南シナ海の領土紛争がある海域から「外国が領有権を示すために設置した標識」を除去したと発表(RFI)。 RFIの取材に答えた海軍中佐は、「うちの軍も国も設置してないから、外交がぶったてたもんやろ。だからうちの領土からポイしてやった」と堂々と答えてい ます。ちなみに「外国」がどこかはわからないとのこと。「標識にはメイドインチャイナとは書いていなかったぜ、HAHAHA」とゴキゲンなお答えです。数字しか書いてなかったとのことですが……、本当?

とフィリピンも絶好調。大統領は控えめ発言。周りが強硬発言という絶妙(?)のバランス感覚を見せた。さらに超老朽艦隊旗艦を派遣するという挑発行為までやっている。

元・海自護衛艦、南シナ海に出動=フィリピン政府が中国を牽制(KINBRICKS NOW、2011年6月18日)
フィリピン防衛省のEduardo Batac報道官は、フィリピン海軍艦隊旗艦、フリゲート艦のラジャ・フマボンを南シナ海に派遣することを表明した。このラジャ・フマボンという艦艇はなんと二次大戦にも参戦した経歴の持ち主。以前は日本の海上自衛隊に所属していたこともある。
20110618_rajah_humabon
*2009年の写真。

1943年就役の艦がいまだ現役という事実に感涙。後述するが、今回の事件を機にフィリピン海軍は新たな主力艦を購入するが、これも米国のお下がりの老朽艦だった……。

フィリピンで反中感情が急拡大、70%超が「中国製品ボイコット」に賛同―香港メディア(RecordChina、2011年7月13日)
ポータルサイト・ヤフーフィリピンで実施されたネットアンケートでは3万1000人が回答。70%以上があらゆる中国製品をボイコットするべきと回答した。別にテレビ局が実施した調査もあるが、ボイコットを呼びかける比率はより高かった。

官制デモをやったり国が国民を煽ったら思った以上に燃え広がっちゃったというのがベトナムならば、民主主義国として「がつんとやれ!」的民衆ニーズに応えてみようかという政治家が登場するのがフィリピン、という印象を持っている。


■「これは米国の陰謀だ!」と中国官制メディア、そしてベトナムの背景


「平和の国」を自称する中国にとって、ベトナム「民衆」が反中デモを起こすなどとても受け入れられない事態。というわけで、すべては「米国の陰謀だ」と強弁する珍社説も登場。

「平和の国」中国が東南アジアから嫌われた……米国の陰謀に違いない!―政治学で読む中国(KINBRICKS NOW、2011年7月29日)
「南沙諸島などの領土問題から中国と東南アジア諸国の関係がおかしくなっていたり、中国脅威論が唱えられるようになっているが、全てはアメリカの陰謀。中国は策略に乗ってはならない」

もちろん、中国的世界観とは別にベトナム人が中国に抱く複雑な感情がある。本サイト寄稿者のimajunさんがこの点について触れている。

【南シナ海問題】ベトナム人が語る中越関係=尖閣諸島から南沙諸島へ―北京で考えたこと(KINBRICKS NOW、2011年7月5日
この南シナ海での領土問題を、今起きていることだけで論じていては視野が狭過ぎる。ここ数年で中国側に捕まるベトナム漁船の数はどんどん増えている。捕まれば、網は没収され罰金を要求される。今年だけで捕まった漁船は100艘に達しているだろう。  捕まった夫や子どもの帰りを、海岸で泣きながら待つ女たちの姿を見て、ベトナム世論がどれほど怒ったかを中国人は知らないだろう。

【中越対立】ベトナムが「突っ張る」理由=国内事情から読み解く―北京で考えたこと(KINBRICKS NOW、2011年6月15日)
新しいグエン・フー・チョン体制が初めてぶつかる大きな外交問題が、今回の中国との領土問題と言えます。これまでよりも「強硬」と言われる対応を取っているベトナム政府を見る際には、この「できたて」の新しい政治体制との兼ね合いも注目されます。

 新指導体制が新しい「毅然とした」外交姿勢を見せているのか、あるいは、軍の声が大きくなったことで流されてしまっているのか。中国に関する政治報道に比べ、その辺りの事情はなかなか表に出てきません。ただ、船出したばかりの新政権が新機軸を打ちだそうとしている可能性はあります。


■アフガン、イラクからアジアへ=米国の帰還

東南アジアを中国の庭とした背景には、中国の台頭はもちろんとして、米国がアフガン、イラクにかかりきりになっていたという事情がある。オバマ就任以後、そちらの戦線をある程度手じまいすることで米国のアジアへの帰還が取りざたされるようになった。

時事ドットコム:米軍を歓迎=南シナ海、中国に対抗-ベトナム(時事通信、2011年6月5日)
ベトナムのグエン・チー・ビン国防次官は5日、アジア安全保障会議出席に合わせシンガポールで記者会見し「主権の尊重を前提に、(東南アジアにおける)米軍のプレゼンス(存在)を歓迎する」と表明した。

米空母、タイ・ベトナム歴訪、中国の空母保有牽制+(1/2ページ)(MSN産経ニュース、2011年8月15日)
【シンガポール=青木伸行】米海軍横須賀基地に配備されている米原子力空母ジョージ・ワシントンは、中国空母ワリヤーグの試験航行の間、タイ、ベトナムを歴訪し、対艦訓練などを実施した。中国の空母保有を牽制(けんせい)し、軍事協力を強める動きの一環として注目される。

今回の南シナ海問題で最大の利益を得たのは米国であろう。「アジアへの帰還」をこのうえないスムースな形で実現。諸国に米軍の必要性を再認識させることに成功した。


■南シナ海騒動が残したもの=東南アジアの軍拡競争

はっきりとした手打ちの儀式がないまま、なし崩し的に終わりを迎えた感のある2011年の南シナ海問題。中国は噂されていた石油採掘プラットフォームの設置を延期したようだ。ベトナム、フィリピンの反中感情拡大を考えても、今回の騒ぎは明らかに失敗だったろう。

さて、終わりを迎えたとはいいつつも、今回の騒動が残した影響は少なくない。今、一番目に見える形で現れているのが東南アジアの軍拡競争だ。

ベトナム海軍、ロシア製警備艦を導入・配備へ(VIETJO、2011年8月24日)
ベトナム人民海軍司令官を兼務するグエン・バン・ヒエン国防次官は、同警備艦について、南シナ海域において最新鋭の警備艦であるとコメントした。また、ヒ エン国防次官は経済発展に伴い国家の安全と平和を守るための軍備強化が求められており、最新鋭の軍備を整え国防に尽力することが国家の更なる発展に繋がる と強調した。

ベトナムが潜水艦戦略を増強へ、南シナ海での緊張一層高まる(MORNING STAR、2011年8月5日)
フン・クアン・タイン国防相は3日、ベトナム国会での記者会見においてロシア製のキロ級潜水艦6隻で潜水艦戦隊を編成する計画を明らかにした。国営メディアなどが報じている。キロ級はロシアの通常動力潜水艦で、高い静粛性が特徴。現在、ベトナム海軍の潜水艦は2隻で大幅な戦力強化になる。

フィリピン:米から購入の艦船入港 南沙諸島を警戒へ-マニラ (毎日新聞、2011年8月24日)
く退役予定の比軍最大の軍艦も米国製のフリゲート艦で、グレゴリオが後続の旗艦となる見通し。アキノ大統領は式典で「我々の海域内の資源は国民のもので、兵器の近代化は国民を守ることにつながる」と話した。
元海自のラジャ・フマボンはそろそろ退役。その後継艦も米国のお古という……。


■手打ち

9月に入り、はっきりとした形で「手打ち」を図る動きがあったので、まとめておこう。

中国国務委員とベトナム副首相が会談 南シナ海問題など協議
日本経済新聞、2011年9月7日
中国の戴秉国国務委員(外交担当)とベトナムのグエン・ティエン・ニャン副首相は6日、ハノイで、2国間協力に関する定期会合の共同議長を務めた。会合では、両国が対立する南シナ海の領有権問題についても意見交換したという。   戴国務委員はニャン副首相の招きにより5日から5日間の日程でベトナムを訪問。同会合は今回が5回目の開催で、両国の政府当局者らが出席した。

中国外交のボス・戴秉国がベトナムに乗り込み、手打ちを演出。中越はともに共産党独裁の国だけにトップ同士が話をつけると、関係改善は早いかもしれない。「中国許さまじ」の世論に対応しなければならないフィリピンではもうちょっと事情が複雑だ。

中比首脳会談:経済関係強化 「南シナ海」は棚上げ
毎日新聞、2011年9月1日
比政府関係者によると、アキノ氏は、自国領海と主張する海域で計画中の海底油田開発について、「比の国内法に従う」との条件を付けて中国側に協力を呼びかけた。一方、中国メディアは、アキノ氏が20億ドル以上の投資プロジェクトの締結を目指し、経済界から約300人が同行したと報道。環球時報は「南シナ海における政策を改めず、経済利益だけを求めるのなら冷遇すべきだ」と主張していた。

訪中を終えるや否や軍艦を購入すると発表するというサプライズ(?)も。

フィリピン軍、アキノ大統領の中国訪問直後に監視船の購入を発表
サーチナ、2011年9月5日
アキノ大統領は3日、中国訪問の日程を終えて帰国した。フィリピン海軍は、アキノ大統領の帰国に合わせ、米国からの大型巡視船の購入を発表した。巡視船の購入時期は来年の見込みで、南シナ海周辺海域における警備強化を図ると見られている。このほか、フィリピン空軍による、訓練用の飛行機6台を購入予定も報じられた。

以下はロイターのまとめ記事。ベトナム、フィリピンの事情を同時にとりあげ、「手打ち終了」を伝えている。

中越、南シナ海の領有権問題めぐり交渉迅速化で合意=新華社
ロイター、2011年9月8日
中国とベトナムは、長期間懸案となっている南シナ海の領海問題をめぐる交渉の迅速化を図ることで合意した。新華社が報じた。今年に入って両国間の緊張が高まっており、中国は関係改善を模索している。(…)フィリピンのアキノ大統領は先週訪中、拘束力のある南シナ海上での行動規範が必要との見解で両国は一致した。7月には、中国と東南アジア諸国との間で、南シナ海上に関する一連の指針で合意していた。
(太字強調はChinanews)


トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ