大学など中国の地方高等教育機関が抱える負債は2010年末時点で2600億元(約3兆1200億円)に達しているという。2011年8月27日、
第一財経日報が伝えた。
大学の債務問題は何も今になって発覚したことではない。2007年には吉林大学が30億元(約360億円)の債務を抱えていることが取りざたされた(
サーチナ)。同年、中国教育部トップは高等教育機関の債務は計2000億元(約2兆4000億円)に達したと明かしている(
サーチナ)。
今回改めて大学債務が話題となったのは、湖北省政府が8月14日に公布した「
省人民政府弁好調による湖北省地方高等教育機関債務負担解消・高等教育機関債務リスクに関する意見」が注目されたためだ。この文書では湖北省旗下の高等教育機関が抱える債務が133億元(約1600億円)に達していることを認め、債務解消のモデルを提出している。
DSC_0185 / Peter Mooney
■なぜ中国の大学は借金まみれになったのか?
なぜ中国の大学はこれほどまでの債務を抱えるようになったのか?それは20世紀末から続く大学改革、急激な定員増がある。
21世紀に入って中国でもっとも成長している産業はおそらく大学である。2000年から2005年の5年間に中国の大学・高等専科学校の数は1041校から1792校へ7割以上も増えた。同じ5年間に大学等の教員数は2倍以上に、入学者数は2.3倍に、在校生数は2.8倍にも増えている。
「世界の工場」という労働集約産業から、知識集約型産業に移行するためには人材育成は不可欠との認識だったが、社会の実情を超えた大学定員の拡大は、新卒学生の雇用難などさまざまなきしみを生み出した。
(参照:出稼ぎ農民よりも給料が低い「エリート」たち=大学定員拡大が生み出したミスマッチ―中国)
新設校の設立だけではなく、既存大学も新学部、新キャンパスを設立するなど、各大学は積極的な拡大路線を歩み、3兆円を超える莫大な負債を抱えるにいたった。
■
積極果敢な楽観主義者中国経済を専攻している梶谷懐さんの著書『
現代中国の財政金融システム グローバル化と中央―地方関係の経済学』だが、その内容紹介が面白い。
現代中国の経済発展に果たした、積極果敢な楽観主義者としての地方政府の決定的役割を解明、独自の中央-地方関係に基づく財政金融システムが構造的に生みだしてきた問題と、それが世界経済に及ぼす影響を描き出す。グローバル不均衡や人民元改革問題にも新たな光をあてる画期的成果。
(太字強調はChinanews)
大学債務の問題にも、この「積極果敢な楽観主義者」の影響が大きいのではないか、と考えている。地方所轄の大学に地方政府の意向が働いているのはもちろんだが、強力な権力を持つ大学トップが「積極果敢な楽観主義者」として、アグレッシブな学校経営を展開。全体的に見て、膨大な借金を積み上げてしまったという面が強いのではないか。
素早い決断から圧倒的な「中国スピード」を生み出す、トップダウンの中国モデル。その功がないとは言わないが、楽観的かつ野心的なリーダーの指揮の下、多くのプレーヤーが殺到しては過当競争に陥るという事例があらゆる分野で繰り返されている。
日本の常識で考えれば、教育という公共サービスにおいて、学校の存立をも脅かすほどのリスクを負ってのアグレッシブな経営は許されるのかと疑問に思うところではある。
■郊外に移動する大学
2007年に問題となった吉林大学の債務。結局、一部キャンパスを売却して返済することとなった。湖北省の文書でも、省、市、県の各級政府が相応の負担をすると定めつつも、キャンパス売却による債務返済を奨励している。
21世紀になってから設立された大学は最初からド田舎に立地していることが多いが、それ以前に設立された大学は市街地、あるいはその周辺に立地しているケースが多い。この好立地の土地を売れば相当の金額が捻出されることは間違いない。キャンパス売却と郊外移転の動きはすでに一般的なものとなっているが、3兆円の大学債務はさらにこの動きを加速させるものとなりそうだ。