無法な地上げとどう戦うか、法律を無視した環境破壊企業をどうやって追い込むか、医療ミスにだんまりを決め込む病院にいかにして賠償金を支払わせるか……。
行政と司法が一体化し、かつ権力と深いパイプを持つ企業もフリーダムを享受している中国社会。普通に生活する分には困らないが、権力側と戦う必要が迫られた時、一般人に与えられた手段はそう多くはない。
そう多くはないのだが、戦う道はマニュアル化されつつあるとも言えるだろう。それが
「囲観的力量」(野次馬パワー)だ。

*鳳凰網の報道。
■野次馬パワー発動回路図
野次馬パワーは次のような経路で発現される。
・ネット掲示板やマイクロブログに、人目を引くような、すなわち釣りパワーが強いネタとして投下
↓
・ネットの話題に
↓
・マスコミも追随
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・騒ぎが大きくなりすぎてもみ消せなくなった政府がトカゲのしっぽ切り的に譲歩
もちろん、権力側が強力であれば、どれほど騒ぎが大きくなってももみ消すことは可能だが、小物汚職官僚ぐらいならば、野次馬パワーは命取りとなる。
■釣りネタを書くための三カ条
さて、上記の野次馬パワー発動回路をうまく回すためには、最も重要なのが最初の「ネタ投下」となる。サクラを使って盛り上げたり、複数のネット掲示板に投稿して広めたり、影響力のある人物に取り上げてもらったりということも大事だが、広がりのあるためにはネタそのものに破壊力があることが大事なのだ。
このあたりは2ちゃんねるでどれだけレス数を集めるかとか、ツイッターでどれぐらいのリツイートを集めるかといった技術とも似ているのではないか。自身がある方はぜひ中国の広告代理店に勤めて頂きたいところだ。気を引くための手段としては、第一に悲惨さの強調。女子どもが殺された、追い込まれて焼身自殺した、生き埋めにされた、妊婦が殴られたという話。
第二に傲慢すぎる話。「ボクのパパは李剛だぞ」(交通事故で女性をひいた金持ちのぼんぼんが、父親は警察のお偉いさんだと言い放った「明言」)が典型だろうか。そして第三に笑えるネタだ。枕の話が随分、長くなってしまったが、今回は笑えるネタとして究極レベルの釣りポストを紹介したい。
■乳牛追悼式典2011年9月、中国のネットで大きな話題となった動画がある。それが乳牛追悼式典会場の動画だ。乳牛のために、人間以上の立派なお葬式があげられている。筆で大書された張り紙には「人間と牛の感情は終わることはない」という、おもしろおかしい文字も見える(6日付
大河網)。
*乳牛追悼式典会場動画を伝えるニュース報道もちろん、これはたんなるネタではなく、「野次馬パワー」を発動させるためのしかけ。この動画と一緒に公開されたネット掲示板に曰く、河南省では2000年に乳牛飼育補助金が支給されたが、漯河市召陵鎮政府が資金をインターセプト。酪農家に渡さなかったという。何度も交渉を重ねた末、ようやく半額、30万元(約360万円)だけ支払われた。残る半額は牧場の使用料との名目で召し上げられてしまった。
さらに酪農家らは牧場の土地を2020年まで借りる契約を交わしていたが、鎮政府は勝手にうっぱらってしまったため、立ち退きを迫られているという。すでにオフィスを残し、牧場の施設はほとんど取り壊されてしまったと訴えている。
こうして牛の乳の品質は落ちるわ、中には死んでしまったものも出るわという状況になってしまった……というのが訴えの内容だ。
■追い込まれた鎮政府鎮政府は、酪農家側が土地のレンタル料を支払ってなかったこと、赤字がかさんでいたことから仕方なく売却しただけと弁明している。
しかし、ネットの盛り上がりとメディアの報道を受け、上級政府は調査グループを設立した。酪農家側に過失があったとしても、世論の風は酪農家側に吹いている。土地売却の手続きなどまじめに検査すれば、鎮政府になんらかの問題は見つかるはず。もともと叩けば必ずほこりの出る身なのだ。
野次馬パワー発動に見事成功した乳牛追悼式動画の前に、鎮政府は不利な立場に置かれている。
日本の場合は、政府よりも特定の企業潰しか個人潰しに利用されるんでしょうね。ああ怖い(苦笑)。