■「朱鎔基釣り発言」に宣伝部が過敏に反応■新華社が「朱鎔基講話実録出版、大部分が初の公開」と報じていたのを目にし、「ああ、4月の清華大学100周年の時に宣伝してたアレか。どれだけ宣伝部の手が入ったのかな」と記事を漁っていたら、こんなのが出てきました。
(清華大学の講演については記事「学生には真実を伝えろ!朱鎔基元首相のガチンコ危険球トーク」を参照)「朱鎔基講話」抜き取られ販売=調査報道紙、「差し止め」情報も-中国
時事通信、2011年9月8日
【北京時事】調査報道で知られる中国紙「南方週末」は8日付で、朱鎔基前首相が在任当時に内部で語った非公開講話を掲載した。しかし同日午前、北京の売店では朱氏講話の載ったページが抜き取られて販売された。メディア規制を強化する当局による差し止めが原因との見方も出たが、同紙幹部が否定するなど情報が錯綜(さくそう)した。
問題となったのは、同紙「時局面」で、朱氏が1998年3月、首相就任後初の国務院会議で語った講話などを3ページにわたって掲載。「もし今の政府が単なるお人よしならば、われわれは人民に対してすまなく思う」と率直に語っている。
*朱鎔基・前総理。新京報の報道。抜き取られていたのは、8日付南方週末の9~11ページ。今回、発売された『朱鎔基講話実録』の第3巻に掲載されている内容です。同書を購入すれば誰でも読めるはずの内容を差し止めるというのはかなりの過剰反応ではないでしょうか。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。
■「今の政府が全員「お人よし」なら、我々は人民に申し訳ない」
南方週末のサイトからは会員制なので、7月の鉄道衝突事故でも頑張っていた財経網で見ることにします。
1998年3月、国務院会議の就任講話における朱鎔基(財経網、2011年9月8日)
4月の清華大学講演で既に中央宣伝部が審査中だと朱鎔基が語っていたように、少なくとも発売までに4ヶ月の審査期間があったはず。国務院会議という内部講話なので、確かに初公開ではあるのですが、そんなに「激しい」わけではありません。
如果本屆政府都是“好好先生”,我們就對不起人民
(今の政府が全員「お人よし」だとすれば、人民に申し訳がたたない)
では何が問題だったのかを考えてみると、例えば見出しに使われているこの発言。朱鎔基が総理就任直後の国務院第1回全体会議での講話なので、冷静に考えれば「今の政府」とは朱鎔基内閣を指すと分かるはずですが、ぱっと見、「温家宝のことかー!」と誤読してしまいました。こういう釣りっぽい見出しが良くなかったのでしょうか。
とは言え、審査を経て出版にこぎつけている訳です。全体的に見ても清華大学の講話内容に比べれば、大したことないのです。確かに現政権に対する批判らしき発言もありますが、結局は一度は発禁にさせた内容を補充しているわけですし、ネットでも削除はされていません。
■発禁は北京市内だけ?報道でははっきりしないのですが、北京市宣伝部が北京市内だけの流通を一旦差し止め、他の地域で発禁はなかったようなのです。
(その後の報道によると、南方週末は公式マイクロブログで「印刷が遅れたため、北京では間に合わなかった」と謝罪。内容に問題があったわけではないと説明しています。信じる人はいないでしょうが……。なお、同紙を買ったマガジンスタンドにいけば、朱鎔基記事が載ったページをもらえるとのこと:Chinanews)北京市宣伝部は、鉄道追突事故報道で当局に支持に歯向かい、調査報道を続けた地元都市報2紙(新京報、京華時報)を先日、直接の配下としました。
(関連記事:「さよなら新京報、中国メディアの行方」日経ビジネス、2011年9月7日)
中国共産党中央宣伝部の意向に従い、メディア監視を強化している北京市宣伝部が過剰に反応したがゆえの騒ぎだったのではないでしょうか。
*当記事はブログ「中国という隣人」の許可を得て転載したものです。