中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2011年09月11日
また、不公平な状況におかれても泣き寝入りしていたかつての出稼ぎ農民と比べ、第二世代農民工は権利意識が高いのも特徴だ。だが、地元政府の労働紛争調停機関や司法は助けにはならない。そこで問題を解決するならば、暴動やデモ、ストライキといった実力行使しかないと考える第二世代農民工が少なくないという。調査では「群衆事件(暴動やデモなど集団による騒ぎを指す)を起こすことで自分の権利を守る」との回答が45%に達した。「騒ぎを大きくすれば、事態は解決する」との回答も16%に達している。
■「暴力装置」としての同郷会
調査報告では、実力行使にでる際の「暴力」を提供する装置として、同郷会が占める役割が高まっていることにも触れられている。もともと中国ではさまざまな形の相互扶助組織が発展していた。血縁関係を絆とした宗族、同業種によって組織される行会、宗教や疑似血縁関係によって結ばれる秘密宗教や秘密結社。地縁を軸とした同郷会もその一つだ。
政府も司法も頼りにはならない。労働組合は官制組織か、あるいは名ばかりで実体がないものばかり。こうした状況で、故郷から離れた出稼ぎ農民たちにとって、同郷会は唯一頼れる存在になっているという。
その同郷会もたんに同じ地域出身者が集まるだけの集団ではない。出稼ぎ農民から保護費を取り立てるマフィア的組織の側面を持ち、またひとたび問題が起きれば、「暴力」を動員することもある。記事では未払い給与をめぐり、農民工と経営者が談判になった際のエピソードが紹介されている。同郷会は「打手」という“若い衆”を派遣。経営者が要求に応じないとみるや、あたりを壊し始めるなど暴力を振るった。
■潮州市の暴動
記事「仁義なき抗争!ホテルの用心棒VSタクシー運転手軍団=ヤクザ化する中国社会―金ブリ浪人のススメ」でも簡単にふれたが、今年6月に広東省潮州市で起きた四川省出身出稼ぎ農民の暴動も、同郷会が大きな役割を果たしたと言われている。
事件の発端は未払い給与の支払いを求めて、出稼ぎ労働者が経営者との交渉に臨んだところ、経営側が用意していた暴力団に暴行され重傷を負ったことにある。この話を知った同郷会は仲間の復讐を果たすため、“若い衆”を大量動員した。
押し寄せてきた四川マフィアを現地人は警戒、自警団を組織し四川人を見るや暴行を加えたとも伝えられている。現地はあたかも広東人対四川人の内戦状態の様相を呈していた。
■地域間対立の今後
農民工の権利問題といえば、子どもたちの教育や医療保険などの公共サービスが現地人と大きな格差があることがよく取り上げられる。だが、最も先鋭的な問題は依然として給与未払いや賃上げであろう。
世界経済の低迷もあり、輸出型産業の経営も決して楽ではない。経営者側もおいそれとは賃上げできないだろうし、また給与遅延や未払いの問題もさらに増える可能性は高い。政府は労働紛争調停機関の強化を進めているが、仏山市の調査は農民工たちが「政府の助けよりも、騒ぎを起こしたほうが解決につながる」と考えていることを示すものである。
根本的な解決には、訴訟なり労働紛争調停などの平和的解決ツールの実効性、信頼度を高める政府の努力が不可欠になる。だが、汚職官僚問題しかり、きわめて恣意的な政治運営がなされているなか、政府機関が公平な裁きを下してくれるとはなかなか思ってもらえないだろう。信頼獲得は決して容易な道ではない。