■アメリカ同時多発テロ10年後の中国の見方■9月11日には、「9.11から10年」といった特集をいたるところで目にしました。というわけで、今日はアメリカ同時多発テロと中国について取り上げます。
『
人民網』や『
環球網』は特集サイトを開設するほどの力の入れようで、かなりのボリュームです。斜め読みでも全部目を通してから書けばいいのでしょうが、さすがにこれだけあると全部は無理というのが正直なところです。
そこで読んでいて面白い『環球網』をネタにさせていただきます。特集の標題も「『9.11』から10年、事件は世界に何をもたらしたか=国内外の専門家・海外特派員が読み解く『変わったもの』と『”変わらないもの』」という興味を引かれるタイトルです。

WTC 40 / Lil' Mike■9.11を契機に変化した米中関係
まず当時の世界情勢を少しだけ振り返っておくと、当時のアメリカはブッシュ大統領がトップ。チェイニー副大統領、ラムスフェルド国防長官といった「右派」が外交を
仕切っていました。さらに1999年のNATO軍による中国在ユーゴスラビア大使館誤爆事件、2001年8月に海南島で起きた米偵察機と中国戦闘機の空中衝突などの事件があり、米中関係はかなり悪化していました。
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。
状況を一挙に変えたのが9.11です。「テロとの戦争」を訴えたアメリカは、中国やロシアなど国内に民族問題を抱える国が、過激な分離独立派をテロと
して弾圧することを認めました。その引き替えに、アルカイダなどへの対応に国際協力を取り付けたのです。こうしてアメリカと中国は関係を改善することになります。
■変わらないアメリカの価値観
さて、「9.11」によって何が変わったかですが、寄稿者によって上げられたポイントは多種多様。テロの影響でニューヨークを離れた人が多く経済に打撃を与えたという者もいれば、アフガンとイラクと立て続けに「戦争」したことでアメリカは疲弊した、「パンドラの箱」を開けてしまったのだと表する人もいます。
あれだけの事件ですので、海外派兵の増加、空港での安全チェック強化とかいろいろなことがありました。ただ、一番興味を引かれたのが、「価値観以外は皆変わってしまった」という指摘。すなわち、アメリカの価値観が変わらなかったとの分析です。
アメリカ人の価値観はずっと変わっていない。彼らは、遅れた過激派には先進的な米国の民主という価値観は受け入れられないと考えている。政府がどのように変わろうとも、アメリカの長期核心戦略はアメリカ的民主という価値観を推進することから揺らいでいない。
この核心戦略はずっと変わっていないのだ。全てはこの戦略のための手段にしか過ぎない。反テロもまた、アメリカが覇権を維持するための新しい手段となっている。
米中関係改善はたんに反テロという利害の一致がもたらしたに過ぎません。人権問題では米国は中国批判を続け、中国はアメリカ的価値観を押しつけるな、覇権主義を棄てろと反論する構図が変わらず続いているのです。
■アメリカの次の標的は中国か?
もう1つ興味深かったのが、『
環球網』で「過去10年、アメリカは戦略の中心を反テロに置いてきた、現在情勢が少しづつ変わりつつあり、中国が次の標的ではないかという意見がある、どう思うか?」というアンケートを行っていたことです。
9月11日22時現在、この見方に賛成する者が83%、反対するものが17%となっております。多くのコメントが寄せられている中、こんな書き込みがありました。「
アメリカは野心を抱いている。中国は平和的態度でアメリカと接するが、アメリカはそのではない」という中国政府の公式見解を書き写したようなコメント。「
戦争を希望する。戦後は新しい時代がやって来るのだから」といった、超タカ派意見を述べる人もいます。
■シニカルな当局批判も
最近の『環球網』における望ましい変化だと思うのですが、一方で、中国政府批判の書き込みも目立ちました。「(アメリカよ、)汚職官吏を殺すことを手伝ってくれ」とか「アメリカを支持する」といったものもありました。
ただ、個人的に一番受けたのが「
NATOがマンションを提供してくれること、仕事と自由で幸福な生活を探し出してくれることを期待する」という書き込みです。笑っては失礼になるのでしょうが、住宅の問題を真っ先に持ってくるなど、中々うまい現代中国(政治)批判だと感心しました。
*当記事はブログ「政治学に関係するものらしきもの」の許可を得て転載したものです。