社会主義時代の意識はなかなか改まらないようだ。大多数の中国人の皆さんには「納税者意識が皆無」なのである。
それもそのはず、改革開放前は所得税は導入されず、1980年になってようやく「個人所得税法」が施行された。とはいえ、低所得者には課税されず、実際に納税していたのはごく一部に過ぎない。9月1日の所得税法改定前で8400万人(月給2000元=約2万4000円以上)、改訂後で2400万人(月給3500円=約4万2000円以上)となる。
日本の消費税に相当する税金として、増値税などの間接税も存在する。しかし、企業に課された税金であるため、消費者は品物の値段のうち、税金分がいくらなのかを知ることはない。

it's money, comrade / pnoeric
上述したとおり、9月1日に個人所得税法が改定され、最低課税基準額が2000元から3500元に引き上げられた。だが、納税者意識がなく、税金についての意識を持たない市民、そしてメディアまでもが的外れな「税金批判」を展開している。
■税務署の怠慢という勘違い
9月1日より最低課税基準額が引き上げられたのに、以前の基準で税金を支払えと税務署に言われたよ!税務署のソフトウェアがまだ新基準に対応していないから、おまえら我慢せいよとのこと。ひでぇ
という市民の声を中国広播網が伝え、話題となった。上海市、アモイ市など多くの地域でこうしたトラブルが起きているという。私もタイトルを見て、「税務署、仕事しろよ。ひどすぎる~~~」と思ったが、ちょろっと調べてみると、全然事情が違う。
「8月31日までに得た所得は改定前の基準に従って納税せよ」という、きわめてシンプルな話だったのだが、これを曲解する輩が続出。メディアまで勘違いに乗っかって税務署バッシングを展開しているという残念な話だった(12日付
新華網)。
ちなみに「8月分給与を9月に支払えば税金減らせるんじゃね」という、間違った知識で合法脱税を狙う動きもあったという。多分、損するのに……。
(関連記事:所得税法改定につけこんだ「合法脱税」が横行?!賢いようで実はすごく損なんです……)
■月餅税という勘違い
税務署システム・ネタ前になっていたのが、「月餅税」だ。
所得税法改定で「月餅税」が課税されるんだぜ!給与だけではなく、物品やサービスの形での支給も課税対象に含まれる。例えば中秋節には社員に月餅を配るのが恒例だが、これも税金がとられてしまう!税務署は鬼だ!悪魔だ!
という不満。マスメディアも「月餅税とかありえねー」「庶民イジメ、よくない」と大きく報じた。だがだが、所得税法を読めばわかることだが、金銭以外の報酬にも課税するという項目は9月1日の改定前から存在する条項。すなわち「月餅税」
(というのはマスコミがつけた扇情的な名前に過ぎないが。実際はたんなる所得税)はずっと前から存在していたのだ。
そもそも金銭での給与にしか課税しないという法律にしたら、タバコや酒など換金性が高い物品で給与を支払う脱税が横行するのは間違いない。いや、現時点でエラい人にはそうした「
灰色収入」がたっぷりあり、そうした不透明なお金にメスを入れるのは、一般庶民にとっては歓迎すべき事態のように思うのだが……。
■近代国民国家として未成熟な中国
税金にまつわる勘違い騒動が連発する背景には、中国国民に「納税者意識」が欠けており、自分たちが支払った税金で公共サービスが運営されているという認識が薄いためだろう。だから、「税金=国が自分たちから奪う金」という感覚が他国と比べても圧倒的に強いのだ。
「俺たちが国を支える」という意識を広めるための装置が民主主義であり国民国家という制度だが、その面で中国はまだまだ遅れている。愛国主義という名のナショナリズムが強まっていると言われるが、一方でもっと基本的な国民意識はまだまだ未成熟なのだ。