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中国版ハルヒのハイレベルな出来に驚かされた=中国人のための「工夫」も万全―北京文芸日記

2011年09月17日

■ハルヒが春日に、キョンが阿虚になった日■

角川書店が中国で発行した漫画雑誌『天漫』。ハルヒやガンダムといった人気コンテンツを中国人漫画家が連載するという、面白い趣向をとっています。となると、気になるのは中国人漫画家のレベル。ネット掲示板をのぞいてみると、早くも話題となっていました。
(関連記事:中国人が書いたハルヒ、ガンダム=話題の角川中国語マンガ雑誌を入手―北京文芸日記

『天漫掲載のハルヒ、作画崩壊してないか?』百度掲示板
やはり天漫版ハルヒは中国人読者も違和感を抱く出来だったようです。自分自身も前回記事「なんでハルヒの漫画版って、そろいもそろって出来がアレなんだよ」と言ってしまったのですが、しかしよく見てみると天漫版のハルヒや朝倉さんは可愛いと思う。
 
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*やや顔が凛々しすぎるときがありますが……。

 
さて、この前、知人から「天漫のハルヒって日本のハルヒをトレースしてるんじゃないの?」という質問を受けました。「なんで角川本社がそんなこと許すの?!」というツッコミを飲み込んで一応調べたんですが、まぁ結論から言いますと当然トレースなんてしていません。ただ、日中のハルヒを見比べて読んでいったところ、忽然と両者の決定的な隔たりに気付きました。そして、「天漫のハルヒは単なるコミカライズではない」という結論にいたったのです。

*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。


■日中の漫画の違い

その「気付き」が的を射ているかどうかは別として、まずは日中の漫画の違いを明らかにするために中国の漫画雑誌をいくつか上げてみましょう。

『知音漫客』『漫画SHOW』
 
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読者層は不明。


『尚漫』

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みんな大好き糸使いです。


■いずれも日本とは異なる左綴じ漫画


この3誌はどれもページを左から右に読む左綴じ形式の雑誌です。セリフが小説と同様に横書きである漫画は中国では一般的だと思います。
 
ただし日本漫画の翻訳コミックスは、原作の形式を尊重しているのか右→左に読む右綴じのまま売られています。天漫に掲載されているエヴァを御覧ください。

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吹き出しのセリフが日本と同様に縦書きになっています。これは左綴じだと読みづらいです。しかし、たかだかA5版サイズのコミック1ページに原作の4ページを強引にねじ込む、昔のガロみたいな手法を取っている海賊版コミックは読みやすさなど配慮していないから左綴じのままです。


■中国にも存在する右綴じ漫画


では中国には日本人が慣れ親しんでいる右綴じの漫画はないのかと言えばそうではありません。確かに中国オリジナルの漫画は左綴じ形式が主流ですが、流れに逆らう存在ってのはいつの時代にも登場するわけで、以前のブログで少しだけ紹介した龍漫がそれに当てはまります。

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みんな大好き糸使いです。


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この見開きの迫力。日本人に馴染みのある構図が凄味を増します。


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この不気味な手が読者の体の裡に迫る感覚がたまらない。


龍漫に所属している漫画家ってわざわざ描き慣れない右綴じ用の漫画を描いているんだと思いますが、そもそも何故この出版社が敢えて少数派を選んだのかその理由はわかりません。小学館と協力関係にあり、犬夜叉やコナンを連載しているのですが、それでも中国人漫画家の作品まで全て「右→左」形式にするのもおかしな話です。日本への輸出でも考えているのかもしれません。


■右綴じ、左綴じで異なる読者の視点

さて本題のハルヒに戻ることにしましょう。日中のハルヒを比較するために2つのハルヒ作品の見開きページを取り上げてみます。日本版ハルヒはネットに張られていた中国語翻訳版の画像です。

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上が月刊コミックエースで連載中のツガノガク版『涼宮ハルヒの憂鬱』で、下が天漫のハルヒです。ともにハルヒの衝撃的な初登場シーンを描いていますが、何が違うかは一目瞭然ですね。それはキョンの視線です。
 
右綴じである日本の漫画はページやコマを右から左に読み進める形式であり、当然読者の視線も右から左に移動します。しかし、セリフが横書きであるために左から右に読む形式の中国の漫画は、読者の視線も日本人読者とは正反対に動きます。
 
そしてこのツガノガク版と天漫版のハルヒは、見開きの1ページ目に驚いて振り向くキョンを描いて勢いをつけ、2ページ目にハルヒの堂々とした姿を配置するという構図で一致。読者の注目と漫画の勢いを「置き」にいっています。
 
ハルヒを見上げているキョンの視線はまさに読者の視線です。天漫のハルヒは中国人読者の視線を配慮した作りになっているのです。


■天満版ハルヒは完全なオリジナル作品

 
当たり前のことを言いますが、天漫版ハルヒは中国人が中国人のために描いた「涼宮ハルヒの憂鬱」です。ライトノベルのコミカライズですが、そこには監督の姚非拉と作画の豚宝、そして制作会社Summer Zooならではの工夫が凝らされています。ましてやトレースではないというのは先程提示した見開きシーンで明らかでしょう。
 
2度も漫画化され、アニメにまでなって日中で大好評を博した作品をもう一度漫画化するのは正直骨が折れるでしょう。同じ内容を違うように見せて、ストーリーを熟知している読者を飽きさせない『涼宮春日的憂鬱』を作ることが制作サイドの一番の課題です。
 
しかし一話を読んだ限りでは、Summer Zoo風のハルヒはすでに水準に達しています。その証拠として、下記画像をあげておきます。
 
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この拝み倒している朝倉さん、可愛くないですか?なんか、お饅頭みたいで。
 
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アニメ版

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ツガノガク版
 

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天漫版
 
こういう独自のデフォルメが見られるんだったら次号も続けて購読したい。漫画家たちには決して変な意味ではなく、中国オリジナルのハルヒを、そして中国オリジナルの漫画を描き続けていって欲しいと強く希望します。

*当記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の許可を得て転載したものです。


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